都庁・都議会議事堂合成
資料写真・東京都庁第一本庁舎と都議会議事堂(東京都新宿区/撮影=Miyuki Hiramatsu)

  20日に始まった平成31年第1回都議会定例会に、東京都が「子供への虐待の防止等に関する条例」案を提出したことがわかった。条例案は昨年3月に東京都目黒区で女児が虐待され死亡した事件を受けて昨年から都庁内で検討がなされていたもので、保護者による体罰および「子どもの品位を傷つける罰」の禁止を明文化したほか、警察との連携強化や児童相談所への情報提供依頼、児童相談所間の的確な引継ぎなどが盛り込まれた(=資料1)

福祉保健局資料1
資料1・条例案のキーポイント(都福祉保健局提供)

 条例案の提案者である小池百合子・東京都知事は、21日未明に開かれた都議会本会議での施政方針説明で、「喫緊の課題」として児童虐待の防止を取り上げ、「子供たちの安全安心の砦であるはずの家庭におきまして後を絶たない虐待を断固防ぐ、強い決意のもと」条例を提案したと語った。また、知事は説明の中で「子供はあらゆる場面において権利の主体として尊重されるべきかけがえのない存在」と指摘し、その権利・利益の擁護と健やかな成長のため、対策を総合的に推進するとしている。

 条例案の制定趣旨について、条例案を所管する東京都福祉保健局少子社会対策部・園尾課長は本紙の取材に対し、「虐待の防止のためには行政や都民や関係者が虐待の認識を共有して社会全体で取り組みを進めていくことが必要になってくる。虐待防止の取り組みを広く都民に向けて発信することや、子育て支援や児童相談所の現場の活動を後押しすることを目指して条例案を策定した。」と話している。

子どもへの体罰禁止を明文化も罰則なし
 条例案では、保護者が行う体罰を禁止し、体罰によらない子育てを推進することを明確に打ち出した。東京都福祉保健局・園尾課長は、躾自体は否定しているわけではないとしたものの、「日本では今も躾として体罰を容認する風潮があり、子どもが独立した人格・尊厳を持つ存在であるという考え方が理解されていない」と指摘した上で、体罰や暴言の禁止を条例に盛り込んだ理由について次のように言及した。
「子どもの脳に体罰というものは悪影響を及ぼすというような医学的な研究結果も出ているので、そこはやはり体罰はエスカレートするし、虐待行為そのものであるというところもあるので、そこはその体罰というものをまずはいけないということを理解していただくということが現場で対応している児童相談所や区市町村の意見でもあって、それで実際検討して盛り込んだというところだ。」

 また、都は条例案で保護者が行う体罰や暴言等の「品位を傷つける罰」を明確に「子どもの利益に反するもの」として定義付け、民法で親が子の利益のために必要な範囲で行使できるとされている懲戒権の適用範囲外とすることで、民法に抵触しないようにした(=資料2)
福祉保健局資料2 トリミング

資料2・体罰・暴言の禁止を定めた条例案と民法の「懲戒権」の関係(都福祉保健局提供)

 しかし一方で条例案には保護者による体罰や暴言に対する罰則規定がなく、虐待に対する抑止力として実効性に疑問が残るという意見もある。

 この点について園尾氏は、「虐待があった場合には子供に対して必要な支援を迅速に行うとともに、再び適切な親子関係を構築することができるよう、保護者を罰するのではなく、より支えていくほうが重要であるという考え方のもと(条例案を)策定した」と述べた上で、「児童虐待防止法や児童福祉法においては既に罰則が設けられており、目黒区女児虐待死亡事件や千葉県野田市女児虐待死亡事件のような虐待行為が暴行・傷害に該当するようなものは刑事法令が適用される。」と既存法令で対処できると説明した。

 また、この条例案を検討する過程で開かれた東京都児童福祉審議会では、委員より「虐待するのは保護者だけではないということがこの条例の中に反映されていないのではないか」「保護者等の責務のところに、保護者だけではなくて、保護者にかわって子供の養育等にかかわる専門職についても、入れたほうがいいのではないか」という意見が出されていたが、条例案では反映されておらず、保護者に限定されている。

 実際に、今月、東京・世田谷区の児童養護施設で職員による女児への心理的虐待が認定された。こういったことが起こっている中、何故保護者に代わって子どもを育てる専門職についての規定を排除したのか。

 この点について、園尾氏は次のように話している。
「(条例案は)目黒の事案(=目黒区女児虐待死亡事件)を受けてというところもあり、まず例えば施設の職員から子どもに対する虐待行為(=被措置児童虐待)は児童福祉法に規定があり、都では法律に基づいて調査等を行っているところだ。法律で規定しているものを全部網羅する条例というのはポイントがぼやけてしまうというか、やはり躾と称して子どもが亡くなるといったことを未然防止していくというところに焦点をあてて、あくまでも保護者と子どもの中の虐待というところを捉えて今回規定をしている。」
民間事業者が情報提供しやすい環境づくりも
 また、園尾氏は、今回の条例案の特徴の一つとして民間事業者が児童相談所への情報提供を個人情報に基づき提供できる根拠を明確にしたことを挙げている。園尾氏は、民間のオートロックマンションなどで虐待通告があった際に親子に会おうとした際に入れないとか、交通機関などで子どもが虐待されている様子がカメラに写っている場合などに映像の提供を求めても個人情報を理由に情報提供を躊躇されることが多いという例を挙げ、条例制定で民間事業者が情報提供できる規定を盛り込んだと説明した。

若い世代が相談しやすい「LINE」相談を導入へ
 このほか都は、昨年11月にLINEを使用した相談事業を試験的に実施した結果を踏まえ、条例案の「子どもに対し、自身が守られるべき存在であることを認識するための啓発及び相談先等に関する情報提供を実施する」という点について、若い世代に身近なメッセンジャーアプリ「LINE」を使用した相談を今年8月から本格的に実施し、若い世代の相談のハードルを下げる方針だ。

都は職員増員・育成を進める方針
 現状、各地の児童相談所では専門の人材が不足しており、その結果として虐待事件を防げない部分がある。都は緊急対策で児童福祉司や児童心理司を採用して増員した上で、経験を有する児相OBや専門職の管理職がついてOJTで一緒に動いて育成するなど専門的人材の確保・育成を進めている。また、都は虐待の未然防止の観点から、出産前に親と面接する等の区市町村の業務を補助する事業を実施しているとのことで、都と区市町村の連携強化で切れ目のない支援を実現していく模様だ。

都は4月1日施行目指すも…都議会空転
 都は条例を今年4月1日に施行することを目指しているが、条例案を審議する都議会では開会初日から知事与党と野党の対立が収拾できず、初日の本会議が予定より11時間遅れの翌21日0時過ぎに始まる異例の事態となったという。各種報道などによると旧築地市場に関しての問題のようだ。子どもの命と人権がかかっている条例案の制定が政争に巻き込まれ、新たな犠牲者が出ることだけは避けてほしい。

(取材・文=本紙編集長・平松けんじ)

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