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投光器で照らされる文部科学省(撮影=平松けんじ)
  4日、東京都千代田区の国立大学協会前と文部科学省前で大学入試改革に抗議する市民の集会が行われた。集会では複数の大学教授をはじめ、予備校講師、高校生らが抗議の声を上げた。


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国大協前で抗議の声を上げる人々(撮影=平松けんじ)
※プライバシー保護のため画像は加工しています
 午後4時から行われた国立大学協会前の集会では、阿部公彦・東京大学教授、羽藤由美・京都工芸繊維大学教授、予備校講師、高校生らが発言した。集会の場となった国立大学協会前では、敷地の中に人が入らないよう警備員や職員らが立ち、チェーンで敷地を封鎖。対話を拒絶する姿勢を強く印象づけた。集会には大学教授らをはじめ、高校教員など中高年の方々の姿が目立ったが、高校生や大学生の姿もちらほらあった。

 国大協前の集会では、阿部公彦教授がこれまでの民間試験導入が進むまでの経緯を説明した。阿部教授によると、英語の民間試験の大学受験への導入は2013年頃からTOEFLの導入という形で検討が始まったと言われているという。その後、批判が多く寄せられたことから、この計画は立ち消えになったものの、2017年に突然、国立大学協会が民間試験を行う方針を示し、ガイドラインまで作成するという形で筋道をつけたという。阿部教授は大学入試における民間試験の導入が制度設計に問題を抱えている構造的欠陥であるとして、国立大学が民間試験を行わない選択肢を取れるよう誘導することを国大協に求めた。

 羽藤教授は国大協の民間試験を全員に課すという基本方針について「本当に全員が受けられるのか」と疑問を呈した上で、絶対に民間試験を課す理由を大学は受験生に説明する責任があると指摘した。羽藤教授は「受験生と対話することなく、話す能力とか言わないでほしい」と国立大学と国大協を痛烈に批判した。

 予備校講師は、貧困で国立大学しか受けられない受験生に対して受験料が数万円する民間試験を課すことについて「こんなに貧困で喘いでいる人たちに何の根拠もないのに数万円ただで出せいうんですか!それが本当に国立大学のやることですか!」と公教育の在り方を問いかけた。

「僕たちに入試を受けさせて」高校生の悲痛な叫び
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写真・スピーチをする高校生(撮影=平松けんじ)
 午後7時からは場所を文部科学省前に移し、大学入試改革撤回を求める集会が行われた。大学入試改革後の民間試験を受ける第1期世代となる都内の高校2年生が「僕たちに入試を受けさせて」と切実な声を上げた。高校生は「今も足が震えていてすごい緊張している」が、「物理的に文科省前に来られない地方の高校生や入試制度の強行で被害を被ることになる後輩のため」スピーチの場に立ったという。

 高校生は新しい大学入試について、「全国50万人の高校生が一斉に受ける共通一次試験としての体を成していない」と厳しく批判し、次のように思いを吐露している。
 「不安じゃないんです。入試の制度を提供する側が入試の体を成してる制度を僕たちに提供していないんです。」

 現在進められようとしている大学入試改革について、高校生は「入試を入試じゃなくする政策」と指摘する。高校生は、現在のセンター試験の果たしている役割として50万人が一斉に大学入試を受ける中で多数の入学志望者に1点刻みで序列を付けて第一段階の選抜をする道具だと定義づけ、一連の大学入試改革はその役割から外れたことを入試に担わせようとしていることが問題だと指摘する。高校生は「思考力を問うて、表現力を問うて、ディベートをやらせて、アクティブラーニングをして、そういった営みはあくまで教育の現場で教員にリソースを割いて教育現場で行われるべきことです。それをたかだか1・2時間のペーパーテストとかあるいは民間会場に出向いて行う民間検定なんかに担わせようとすること自体がおかしい。」と話す。

 高校生は、英語民間試験の問題について「地方の高校生だとかあるいはハンディキャップを抱えているマイノリティーの高校生そういった機会的に不利を抱えている高校生のための機会均等の策がとられていない」「吃音とかそういう障害を抱えている人がスピーキング試験でちゃんと時間長めに取ったりとかして、配慮が取れるのか、そんなことすら決まってない」と指摘。高校生は、地方の高校生が自分の県でどういう民間試験が受けられるのという情報が未だに未定なものが多く、苦しんでいることを訴えた。

 また、高校生は、国語の記述式問題の問題点について、プレテストの結果を用いて「設問条件をガチガチに固めて解答を一通りの方向に誘導して何とか採点しようとしている」と指摘し、「これのどこに思考があるのか」と皮肉った。高校生はこう続ける。
「問題文で与えられた文章をただ情報のまとまりとして読み取って、そこから必要な情報だけを抜き取って書き抜きで書けば正解になるんです。これは実質マークシートがマス目の解答欄に変わっただけ」
 しかしマス目に記述して解答する方式の問題となったことで、色々な方向性で組み立てられた多種多様な解答を「詳しくマルバツ採点でちゃんと正当に採点できるのか」という懸念があるという。このほか、高校生は数学の記述式問題の問題点についても指摘していた。

入試の機会均等、50万人選抜に不向きな記述式問題…相次ぐ批判
 今回、国大協前でも文科省前でも複数の発言者が、入試における機会均等への配慮の無さ、未だに「未定」の英語民間試験の活用状況、記述式問題の問題点などを取り上げ、批判していた。入試の機会均等の面では地方では民間試験の試験会場が多く設置されておらず、海を渡らなければ試験が受けられないかもしれない、県内で受けられたとしても宿泊費や交通費の負担がかかる、吃音などの障害者への配慮の無さ、高い検定料を払わなければならないという入試の機会における格差に強い批判の声が上がった。

 未だに「未定」の英語民間試験の活用に対しては現場の高校生たちは悲痛な声を上げている。ある高校生は「行きたい大学に挑戦するのではなく、安全圏に落とすということが視野に入ってきました。」というコメントを都内の高校生に託したという。また、別の高校生は「県内で受けられるであろう民間試験は数少なく、英検に関しては今の所海を渡らなければ受けられなさそうです。」という悲惨な実情を伝えている。

 また記述式問題の面では、自己採点と実際の点数の乖離により進路決定に影響を及ぼす恐れ、想定できない解答の採点基準の問題、期間内に万単位の答案を採点する方法ことが困難であることなどが指摘されていた。

国会議員も「受験生を実験台にすること許すわけにいかない」
 集会に参加した川内博史衆議院議員は、挨拶の中で立憲民主党の枝野代表が10月7日(月)に国会で一連の大学入試改革に関して追及していく方針であることを報告。川内議員は一連の大学入試改革について「子どもたちにとって最も大切なイベントである入学試験を大人の都合でモルモットのように扱うこと」と批判した。このほか山井和則衆議院議員は香川県の女子高校生の声を紹介したほか、吉良よし子参議院議員は「来年度の受験生を実験台にすると明言していること、絶対に許すわけには行きません」と糾弾した上で、英語民間試験の活用状況について総大学数1068校のうち561校が活用するという文部科学省の発表に対し、「問題は未定と答えていた大学がゼロになったかどうかでしょ?」と指摘。吉良議員によると、文部科学省側は「現時点で回答が来ていないということは活用しないということだと『思います』」と回答したという。これに対し、吉良議員は「思いますじゃ困るじゃないですか」と批判し、大学入試改革の中止・見直しを訴えた。

「精度向上」のための「人体実験」を強行する文科省
 10月1日、萩生田光一文部科学大臣は、記者会見で大学入試改革について「初年度は精度向上期間」と発言したが、欠陥だらけの現行の大学入試改革をこのまま「精度向上」のために強行する行為は、高校生の人生を実験台に使う「人体実験」と言える行為だ。はっきり言って、経済的に苦しくなっているこのご時世に、高校生の1度きりの人生を賭けた大勝負である「大学入試」を、文部科学省の訳のわからない「改革」のために犠牲にすることは、もはや人道犯罪だ。この記事を書いている間にも英検協会が予約申込期間の延長を決めるなど、状況が刻々と変わり続けている。大学入試とはもっと安定的に運用されるべき制度ではないのか。こうもコロコロ変わるような制度はもはや「制度」とは言えない。制度とは朝令暮改されるものではなく、安定的・恒常的に運用されるものだ。このような入試「制度」の下、人生を賭けた勝負を挑まなければならない高校2年生以下の子どもたちが可哀想だ。文部科学省は、人道犯罪的な「大学入試改革」の2021年度入試からの実施を諦め、準備をやり直すべきだ。

(東京・文部科学省前/国立大学協会前=平松けんじ)

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