Reported by 平松けんじ  福島啓介  石川遥樹
コロナウイルス(CDC画像)
コロナウイルスの画像(出典:アメリカ疾病予防管理センター(CDC))

 昨年12月に中国・武漢市で発生した新型コロナウイルス感染症「COVID-19」の日本国内での感染が拡大していることを受け、安倍晋三首相が全国すべての小学校・中学校・高校・特別支援学校の休校を要請してからまもなく2週間。学校や保護者たちは対応に追われている。本紙は現在までに取材した情報をまとめた。


 新型コロナウイルス感染症「COVID-19」は昨年末、中国(中華人民共和国)・武漢市で発生し、これまでに50か国以上に感染が拡大。世界で10万人以上が感染し、約4000人の死者が出ている。日本でも感染は拡大中だ。横浜港に入港していたクルーズ船「ダイヤモンドプリンセス」号では乗客乗員のうち696人が感染し、8人が死亡。国内では514人が感染し、9人が死亡している。(10日正午・厚生労働省)

 学校関係者の感染も相次いでいる。2月21日には千葉市で60代女性教員の感染が判明したほか、北海道・江別市でも給食センターの配膳職員と公立中学校の美術教員の感染が確認されている。また、石川県では10代の少年の感染が明らかになっている。このほか5日には東京・足立区で区立小学校に通う女児と区立認可保育園に通う男児の感染が確認されている。

「専門家の意見を聞いていない」首相と当日知った文科相
 子どもや学校関係者への感染拡大が明らかになっていく中、2月27日夜に政府の対策本部会議で、安倍首相が全国一斉休校の要請を表明。安倍首相は、2月29日に開いた記者会見の中で、3月2日から春休みに入るまでの間、全国の小学校・中学校・高校・特別支援学校の臨時休校を要請したことを発表。会見の中で安倍首相はこれからの1、2週間が急速な拡大に進むのか、あるいは終息できるのかの瀬戸際との状況の中で、何よりも子供たちの健康、安全が第一である。学校において子供たちへの集団感染という事態は、何としても防がなければならない。」と理解を求めた。一方で「質問がまだある」と記者が挙手していたにもかかわらず会見が打ち切られたり、記者クラブ側から質問内容が事前通告されていたことが明らかになるなど首相から国民に対する説明が十分に果たされたとは言い難い状況だ。

 また、3月2日に行われた参議院予算委員会で安倍首相は「直接専門家の意見をうかがったものではない」と述べ、全国一斉休校要請の決定にあたって専門家の意見を聞かなかったことを認めた。また、同じく予算委員会に出席した萩生田文科相は首相の全国一斉休校要請の方針について当日まで知らなかったことを認めた。このような政府の答弁に対し、「場当たり的な対応」との批判の声が上がっている。

法的根拠なき「お願い」
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画像・文部科学省
 今回の要請で一斉休校の対象となったのは、小学校・中学校・高等学校・特別支援学校のほか、高等専修学校。文部科学省の矢野和彦審議官は、2月28日の会見で全国一斉休校に踏み切った理由として、北海道や千葉県などで児童生徒や教職員の感染例が相次いでいることを挙げた。また、萩生田文科相は2月28日の会見で「臨時休業を実施する期間や形態については、地域や学校の実情を踏まえて、設置者において様々な工夫があってよい」「地方の皆さんの判断を尊重して参りたい」と話し、必ずしも要請通り3月2日から休校する必要はないという考えを示している。

 しかし今回の全国一斉休校要請について「地方自治を踏みにじるもの」との批判の声も上がっている。本来、公立学校を休校にする権限は学校を設置する教育委員会にある(「市立」なら市教育委員会、「県立」なら県教育委員会:学校保健安全法第20条)。つまり安倍首相には全国の学校を休校にする法的権限はないのだ。萩生田文科相も2月28日の臨時会見で「これは法的拘束力を持たない、あくまで自治体や関係者の皆さんへの要請」と述べている。

公立小中高校の99%が臨時休校 足並み揃える各自治体
文部科学省の集計(2020年3月4日8時時点)
画像・臨時休校の状況・2020年3月4日時点(出典:文部科学省HP)

 北海道では国に先立つこと2月28日から道内全ての公立小・中学校、千葉・市川市ではスポーツクラブでの集団感染を受け、市内全ての公立学校の休校が行われているが、要請を受けて休校措置が各自治体に広がっている。本紙が全国の都道府県と政令指定都市の教育委員会に取材したところ、これまでに3都県・3政令市から回答を得た。これまで東京都、神奈川県、相模原市、新潟県、北九州市の教育委員会が2日から、浜松市教育委員会は3日から、岡山市教育委員会は日付を明示しなかったものの全校休校していることをそれぞれ明らかにしている。

 文部科学省の集計(=図・リンク先=)によれば、臨時休校を実施している学校は公立の小中高校で99%となっており、特別支援学校も95%となっている。一方で臨時休校を実施していない自治体も存在する。島根県は全県立高校・特別支援学校の臨時休校を実施していないほか、埼玉県は県立特別支援学校全てで臨時休校を実施していない。

 臨時休校を実施しなかった理由について、島根県教育委員会総務課の田原課長代理は「生徒の学習の遅れとか、休校になった場合の親の負担とかを最小限にすることも考慮しなければならないのではないか」と述べた。また、埼玉県教育委員会特別支援教育課の橋本晋一主幹兼主任指導主事は「急だったこともあり、1人で家で過ごすことが難しい特別支援学校の生徒の預かり先がすぐに探せなかったため」と述べている。

休校中の子どもの居場所は? 困る保護者たち
 突然の休校要請を受け、各地の自治体が臨時休校を決める中、共働き家庭の保護者からは「小学校低学年の児童を一人で家に置いておけない」「家で子どもの面倒を見るため出勤できない」との声が上がっている。

 萩生田文科相は、2月28日の記者会見の中で「色々省内でシミュレーションしてきたことがあって、本来でしたらそこに全て答えを用意してから、(全国一斉休校を)スタートしたほうが、結果として混乱は避けることができるんじゃないかという思いもあった」としつつも、「子供たちの安全を守ることを優先しようという結論に至った」と述べ、理解を求めた。

 一方で、厚生労働省は学童保育について、原則として開所するよう求める通知を2月27日付で出している。しかし学校よりスペースが狭い学童保育で濃厚接触は避けられないのではないか。厚生労働省と文部科学省は2日、連名で通知を出し、学校施設の積極的な活用や児童同士を1m以上離して着席させる等の感染拡大防止策を求めている。

友達とも会えない「自宅軟禁」
 休校中、友達と遊びに出る子どもも出てくるのではないか。しかし文部科学省は子どもたちに友達と遊ぶことを控えるよう求めている。

 文部科学省健康教育・食育課の平山直子課長は、2月28日の会見で「感染拡大を防止するための臨時休業ですので、当然ながら人が集まる場所等への外出については避けて、自宅で過ごすようきちんと指導して頂きたい」と述べ、子どもたちの外出自粛を指導するよう求めた。会見では記者から「子供を1か月以上、ほぼ夏休みに匹敵するような期間を、自宅軟禁っていうのは、非常に厳しい状況だ」との指摘がなされた。これに対し、平山氏は「狭い空間に閉じ込めるというようなことをしないで、健康的に生活できる方法というのはたくさんある」と述べたものの、「友達と遊ぶというのは基本的には控えて頂きたい」と発言した。

 愛媛県教育委員会は臨時休校中に教員・地域・PTA・警察が連携してカラオケ、ショッピングモールやゲームセンターなどの娯楽施設を巡回し、子どもたちを発見した場合、帰宅を指導することを7日に発表。愛媛県教育委員会義務教育課の前原淳主幹は、教員が怒鳴ったりするなど威圧したり、強制的に児童を帰宅をさせるということはないとしつつも、「子どもに納得させて帰らせるということが大前提」と述べており、あくまで帰宅を指導する方針を示している。その意図について、前原氏は「家庭にすべて任せるというのではなくて、学校としても子どもの感染リスクが高まるようなところに子どもたちが行っていないかどうか確認するのは当然」と説明している。

 突然首相要請で休校が決まり、友達とも会えず、出かければ教員や警察に帰宅を指導される―自由を奪われた子どもたちのストレスははかり知れない。国会では住民への外出自粛などを求めることができる新型インフルエンザ等特別措置法の改正がまもなく成立する情勢だ。選挙権のない子どもたちは大人たちより一足早く「戒厳令」下での息苦しい暮らしを余儀なくされている。

学習の遅れ・成績評価はどうするの?
 突然の休校で授業を受けることができなくなった子どもたち。学習の遅れや定期試験中止の場合の成績評価はどうするのか。

 文部科学省健康教育・食育課の下岡有希子課長補佐は「適宜例えば補習の授業とか家庭での学習を適切に課すとかいうことをしていただきたい」と述べ、文部科学省としても家庭学習の工夫例や教材の例を小中高別に示していると説明した。また、休校により定期試験を行うことができなかった場合の成績評価について、下岡氏は「定期試験は子どもの学習評価において必ず実施しなければならないということではない」と指摘し、学年末試験が行えない場合などは「日々の授業の中で把握した子どもの学習状況を踏まえたり、総合的に判断して学習評価を行っていただければ」と述べた。

新宿山吹高校 外観
画像・都立新宿山吹高校
 都立高校などでは学年末の定期試験が中止となるなど、成績評価に影響を与える事態が発生している。都立新宿山吹高校の学生新聞「YAMABUKI JOURNAL」の報道によると、新宿山吹高校では後期期末試験も中止となったという。学校側は試験が中止となった教科の学年末評価は前期の評価や後期の普段の学習状況をもとに評価し、不利のないようにするという。東京都教育委員会も2月28日付で都立学校長宛に通知を出し、同様の内容を指示している。

授業動画などを展開する企業がサービスを無料開放
福岡TSUNAGARU Cloudトップページ
画像・福岡市教委が学習動画を配信しているクラウド「福岡TSUNAGARU Cloud」
 各地の学校が休校を決める中、インターネット上で利用できる授業動画や学習教材を提供する企業や団体が次々とサービスの無料開放を決定している。角川ドワンゴ学園N高等学校とドワンゴは3月1日から通信制高校であるN高等学校で導入しているオンライン学習アプリ「N予備校」を全ての人に無料開放する。オンライン学習塾「アオイゼミ」も全ての中高生を対象に、通常有料会員のみが見放題の授業動画を3月31日まで期間限定で無料開放する。また、授業動画4万本以上を配信しているインターネット学習サービス「スタディサプリ」も学校・教育委員会を対象に4月30日までサービスを無償提供する。

 武漢市での新型コロナウイルス発生後、学校の休校が続いている中国ではインターネットを活用した授業などが推進されているが、日本ではそのような取り組みを学校として行えていない。文部科学省は「GIGAスクール構想」と題して国が子どもに1人1台パソコンを学校で使えるような環境整備を2020年度から実施する予定だったという。しかし現時点では学校にパソコンが配付されている最中であり、結果として今回の事態には間に合わなかったそうだ。文部科学省健康教育・食育課の下岡有希子課長補佐は「(子どもに1人1台PCが行き渡る政策が)きちんと進んでいれば、こういう事態になってももう少しできることの選択肢の幅が広がってきていたかもしれないなという風には思う」と話していた。

 民間企業が相次いでオンライン学習システムを相次いで無料開放する中、文部科学省は3月2日、「臨時休業期間における学習支援コンテンツポータルサイト(子供の学び応援サイト)」を開設し、臨時休校中の学習支援コンテンツについて紹介している。一方で経済産業省も民間企業が無料開放しているオンライン学習システムの一覧を掲載したポータルサイト「学びを止めない未来の教室」を開設するなど、休校中の子どもたちへの支援が拡大しつつある。

 民間企業のオンライン学習サービスを官庁公式サイトで宣伝する国を差し置いて、自治体もインターネットを活用した家庭学習支援に乗り出している。福岡市教育委員会は今年2月から導入予定だった教育クラウド「福岡TSUNAGARU Cloud」上で家庭学習の進め方や学習のポイントなどを解説する動画を配信している。また、茨城県の下妻市教育委員会は3日から市立学校の外国語指導助手(ALT)が出演する英語の学習動画を児童生徒向けに配信している。いずれの教育委員会も休校要請を受け、急ピッチで動画制作に踏み切ったことを明かしている。

論評◇ブレブレ対応と「説明拒否」が招くパニック
▽安倍首相が全国一斉休校の要請を行い、全国の学校設置者が休校を決めた流れは、新型コロナウイルス感染拡大の情勢を踏まえると妥当だったと思う。しかし萩生田文科相も指摘している通りもう少し準備した上で行うべきではなかったか。何より政府方針を25日に定めておいてそこに書いていないことを27日に突然言い出すというのは朝令暮改も甚だしい。▽首相の臨時休校要請後も「地域の実情に応じて判断することを妨げるものではない」とトーンダウンするような発言をしてみたりなど、対応に一貫性が全くない。政府の場当たり的な対応で子どもも保護者も学校も大混乱だ。文部科学省内で休校要請により発生する問題点をシミュレーションできていたのに、何故その解決を待たずに突然休校要請を出したのか。政府は「子どもたちの安全を第一」と強調しているが、有事にブレブレの対応をする政府の方が国民の安全を害しているのではないか。▽また、安倍首相は国会で休校要請決定に際し、専門家の意見を聞いていないことを自ら暴露したが、では休校要請の科学的根拠は何なのか。政府はこれだけの混乱を招いた以上、説明する責任があるのではないか。しかし2月29日の首相会見はたった5人の記者の質疑のみで打ち切られた。まだ質問を要求する記者が挙手していたにもかかわらずだ。これが「説明責任を果たしている」姿勢と言えるのだろうか。▽昨年、大学入試改革に抗議の声を挙げた大学生が排除された事案を受け、筆者は初めて柴山昌彦文科相の記者会見に参加した。その際、最後に筆者を指した柴山氏は筆者が急遽2問目の質問を行おうとした際、「大臣もお時間あるので」という幹事社の記者から筆者への注意があったにもかかわらず、「いいですよ」と応じてくれた。回答の内容はともかくとして柴山氏の姿勢は大臣として記者の質問に最後まで答えようとする誠実さを感じた。(註:この点のみだが)▽しかし首相や官房長官の記者会見を見ていると到底説明責任を果たしているとは言えない光景ばかりが目に付く。この未曽有の世界的危機で、どれだけ国民に対して正確かつ適切な情報発信ができるかが問われている。政府が適切に説明を果たさず、場当たり的な対応をし続けるから、不安と不信をいだいた国民がマスクやティッシュの買い占めなどのパニックを起こすのだ。▽筆者が取材した文科省の職員は「総理もここまで言っている」と述べていたが、私たちは首相の「私が責任を負う」という無責任な空手形にはもう騙されない。安倍首相、あなたは「責任をとる」と明言し、空手形にしてきたのか。森友・加計問題や「桜を見る会」問題で説明責任を十分に果たしたのか。筆者には到底そう感じられない。このままでは「責任」という言葉は「無責任」という意味になってしまう。未来の国語辞典に注釈を入れられないよう、安倍首相にはそろそろ本気で責任とは何なのか示してもらいたい。
(論評:平松けんじ)