Reported by 平松けんじ
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画像・香川県議会議事堂(※Wikimedia Commons「Kagawaprefassembly.JPG」より(投稿者:Waei氏))
 香川県議会は18歳未満の子どものインターネットやゲーム依存症を防止するため、利用を制限する「ネット・ゲーム依存症対策条例」を18日に採決する。香川県議会の条例検討委員会が12日、決めた。



 
 条例案は県議会の「ネット・ゲーム依存症対策に関する条例検討委員会」(委員長・大山一郎県議会議長)で検討が進められているもので、当初1月10日時点の素案では、小中高校生の「子どものネット・ゲーム依存症につながるようなスマートフォン等の使用」時間を1日60分(学校休業日は1日90分)と制限し、中学生以下には午後9時まで、それ以外の子どもについては午後10時までに使用をやめるルールを遵守させるとしていた。
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画像・1月20日時点の条例案(抜粋)
 この条例に関し、批判の声が上がったこともあり、1月20日時点での修正案では使用時間制限の対象がスマートフォン等からコンピューターゲームに限定された。しかし夜9時以降(高校生以上は夜10時以降)のスマートフォン等の使用をやめることを遵守させる条文は維持されていた。また、事業者などに対し、「著しく性的感情を刺激」するものや、「粗暴性を助長」するもの、「射幸性が高いオンラインゲームの課金システム」などについて「自主的な規制」を求めており、「事実上の表現規制」との批判が上がっていた。

中高生から批判の声 一部県議も反対
 条例によりインターネットやスマートフォン、ゲームの利用に制限をかけられる側の中高生たちからは強い反発の声が上がっている。本紙の取材に応じた、高松市在住の中学生は「ゲーム時間(つまり趣味に割く時間)を行政が決めるべきではない」「パチンコは規制しないのになぜ子どもだけの規制なのか」と批判している。また、この中学生は条例案の問題点として「WHOが規定するゲーム障害と香川県の定義するゲーム依存性の定義が違うのでまず同じものですらないのに同じもののように扱っている(印象操作) 」「(条例案)第11条に規定される事業者の定義が曖昧」「香川県はヤドン(ポケモンのキャラ)とコラボしている(のにゲームを規制する)という矛盾」と指摘している。

 また、条例検討委員会に所属している秋山時貞県議(共産)は「ゲーム障害だとかネットゲーム依存の問題が社会問題になっているというのは当然ある」としつつも、スマートフォンなどの使用に時間制限を課す条例案のあり方について「かなり個人の領域に踏み込んだものなので慎重であるべき」「条例に適さないのではないか」と指摘。秋山県議は条例案に保護者が第一義的に責任を負うと記されていることに関し、「条例に書き込むものではないかな」との見解を示し、「今のままでは賛成できない」と述べている。

 秋山県議は17日にも本紙の取材に応じ、共産党県議団は条例案に反対する考えであることを表明している。

異常に多いパブリックコメント件数
香川県パブリックコメント件数比較表
表=ネット・ゲーム依存症対策条例のパブコメ件数と過去のパブコメ件数(取材をもとに本紙作成)
 香川県議会は1月23日から2月6日にかけてパブリックコメントを行い、県民や事業者などから意見を募集した。県議会事務局政務調査課・川上氏によると、県内の個人から寄せられた意見の総数は2613件(うち賛成2268・反対333・その他提言等12)、県内の団体が2件(賛成1・反対1)、全国の事業者が71件(賛成0・反対67・提言4)だという。

 一見、賛成意見が多いように見えるが、今回のパブリックコメントには大きな疑念がある。実はこれまでの県議会が実施したパブリックコメントの件数に比べると、今回のパブリックコメントの件数は異常に多いのだ。2017年度に実施された「香川県県産木材の共有および利用の推進に関する条例」は件数はわずか2件、2014年度に実施された「子育て県かがわ少子化対策推進条例」はわずか5件しか意見が来ていない。2017年度のパブリックコメントと比べると今回の条例案に関するパブリックコメントの件数は1000倍だ。これを異常と言わずとして何というのか。

 また、今回のパブリックコメント募集期間は過去の2件のパブリックコメントに比べて圧倒的に短いのも特徴。2017年度のパブリックコメントは10月12日~11月13日とほぼ1か月間の募集期間、2014年度のパブリックコメントは1月13日~1月30日と半月間の募集期間が確保されている。一方で今回のパブリックコメントは募集期間が1月23日~2月6日と2週間程度しかない。県議会事務局政務調査課の長尾氏は本紙の取材に対し、「当初1月10日の検討委で素案が決まった後に実施する予定だったが、そこで素案が決まらなかったので、20日の検討委で修正案を出してパブコメを実施することになった。修正が想定外だったため。急遽修正を入れることになって、結果として短くなっている。」と説明している。しかし、では1か月で僅か5件しか来ないような県議会パブリックコメントに2600件以上も意見が寄せられたのか。何か不透明な力が働いたのではないかとの疑念は深まるばかりである。

開示されない全意見
 パブリックコメントに寄せられた意見の概要は採決前日の17日に県議会のホームページで公開された。しかし検討委員に対して17日時点ですべての意見は開示されていないという。秋山県議ら共産党県議団と自民党議員会(大山議長らが属する「自民党県政会」とは別会派)は、条例検討委員会に対し、パブリックコメントのすべての意見を開示するよう求めていたが、検討委員会は「①開示は"検討委員のみ" ②18日13時〜19日17時の期間限定③メモや口外はダメ」という回答を出してきたという(秋山県議のTwitter)。秋山県議はこの点について「内容に愕然」「これでは公開と言えません」と批判している。

 また本会議終了後である18日13時~19日17時の期間限定で公開するというのは、採決に臨む県議たちに採決のために必要な情報提供を怠っていると言わざるを得ず、もはやパブリックコメントを行った意味すらかなぐり捨てていると言える。

批判受け、条例案文の表現を弱化
 検討委員会は県内外からの批判の声やパブリックコメントを受け、12日までに条例案の条文をさらに修正。18条の項目名を「子どものスマートフォンの使用等の制限」から「家庭におけるルール作り」に変更したほか、「基準」という言葉を「目安」に変更。また、スマートフォンの終了時間として15歳・中学生以下は(夜)9時、高校生・18歳未満は(夜)10時としていたものを塾帰りの家族の連絡や学習に必要な検索などを除くことにしたという。(県議会事務局政務調査課・川上氏)

 本紙の取材に応じた県議会事務局政務調査課・川上氏は、条例案の修正過程で規制や制限に関する表現が弱まっていることを認め、「こちらの言葉足らずで誤解があった。基準という言葉にしても規制だという声があったので、そこは制限という言葉を変えたり、ルールでこちらからお願いするということで明記をした」と説明している。

 実際に条例案の具体的条文の変更点を確かめるべく、現時点の条例案を開示することを求めたが、川上氏は「今修正かかってまだ調整中ですので、まだ皆さんに出していない(から開示できない)」と拒否。川上氏は「一部預かりという形で、一部は委員長にあずかっているという形で、当日18日に議案として出る形になる」と説明している。

 条例案の検討委員会はこれまで非公開で行われており、議事録も残されていない。審議を非公開にし、議事録も残さず、内容も開示せず、条文も開示しない、こんな非民主主義的な議会運営のあり方が許されるのか。

 18日の県議会本会議は県議会サイトでライブ配信されるほか、録画映像も公開される予定だという。子どもの権利、そして表現の自由を守るためにも徹底的な監視が必要だ。

【追記】2020年3月19日13時41分
 同条例は18日の本会議で賛成多数で可決・成立した。施行は4月1日。賛成したのは自民党県政会・公明党議員会・無所属の22議員、反対したのは自民党議員会・共産党県議団の10議員、棄権したのはリベラル香川の8議員。

条例案素案(2020年1月20日時点PDF)
条例案(実際に可決されたもの・2020年3月18日本会議で可決・成立) 2020年3月19日追記
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