Reported by 平松けんじ
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大で緊急事態宣言の5月末までの延長が決まり*、学校の臨時休校が長期化する中、入学や新年度開始の時期を4月から9月に変更する「9月入学・新学期制」の導入が注目されている。


大阪府教委 「超ブラック」な学校再開シミュレーションを公表
授業時間シミュレーション 大阪府教育庁提供
資料・大阪府教育委員会が作成した授業再開シミュレーション(大阪府教育庁提供)
 このような情勢の中、大阪府教育委員会は、今後学校を再開した場合のシミュレーションを公表した(=画像=)。シミュレーションによると、6月8日に通常授業を再開した場合、小学校では夏休みと冬休みを16日短縮しなければならないほか、15回の土曜日授業、15分単位の授業を週1回行わなければならない。高校では夏休みと冬休みを27日短縮、土曜日授業を2回実施しなければならないという。

 そしてさらに1学期終了後以降まで学校を再開できないと、小中では夏休みや冬休みなどすべての長期休みを取りやめにしなければならないほか、毎週土曜授業を行わなければならない。また、中学校では106回の7時間授業、高校では4回の日曜授業が必要となるという。

萩生田文科相「無理をしないと取り戻せない」
萩生田文科相会見20200417画像5
写真・萩生田光一文部科学大臣(4月17日 東京・文部科学省で=平松けんじ撮影)
 萩生田光一文部科学大臣も1日の記者会見で5月末まで休校が続いた場合、学習の遅れを今年度中に取り戻せるのか問われた際、「無理をしないと取り戻せない」と答えている。

 学校再開後の子どもたちは「夏休み・冬休みの完全取りやめ」や「日曜授業」など相当無理をしないと3月までに学習すべきものを履修し終わることができないという「超ブラック」な学校生活を送らなければならない状況だ。

 こういった状況から「9月入学・新学期」への移行案が浮上してきた。国際的にも「9月入学」はグローバルスタンダードとされていることもあり、政治家の間でも選択肢の一つとされている。安倍首相は「前広にさまざまな選択肢を9月入学を含めて検討していく必要がある」と前向きな姿勢を示したほか、萩生田文科相も社会全体に影響を及ぼすものであり、各方面との調整が必要な案件。仮に、我が国の社会全体の問題として広く国民の間で認識が共有できるのであれば、選択肢の一つ」と述べている。また、野党・国民民主党や複数の知事からも9月入学・新学期制導入を求める声が上がっている。

本紙緊急調査 学生53%が「9月入学」賛成
 そこで本紙では4月30日から5月6日にかけて「9月入学・新学期制」導入に関して緊急アンケートを実施した。アンケートでは児童生徒・学生、保護者、教員の各属性別に「9月入学・新学期制」の導入への賛否を問うた。有効回答数は373件(うち児童生徒・学生174件、保護者154件、教員45件)。

 
9月入学アンケート(学生)
 児童生徒・学生では賛成52.9%(92件)、反対及び心配・懸念が43.7%(76件)と、賛成が過半数を超えたものの反対論も一定程度存在する。

賛成の学生「学校生活を取り戻したい」「夏休みや土日に授業で詰め込めるものではない」
 児童生徒・学生の賛成意見の中で多かったのが、文化祭や体育祭、部活動など、いわゆる座学以外の学校生活もちゃんと経験してから卒業したいというもの。千葉県の県立高校生は「コロナで人生最後の総体もなくなり、時期的にももう部活の練習さえも終わりになってきているので、2年間頑張ってきたことを発揮する場所が一瞬で消えて相当なショックも受けている。(中略)行事も全て無くなったら、本当に最後の学校生活がただの勉強だけで楽しみが一つもなくなる。だから、学生にしかできないことをやれる場を設けてほしい。」と悲痛な思いを明かしている。同様の意見は北海道、埼玉県、東京都、新潟県、愛知県、京都府などの中高生からも寄せられている。

 また、「9月入学」賛成の児童生徒・学生たちからは、現行の4月入学・始業制では十分な学習ができないという意見も多数上がっている。東京都の私立高校生は「3月から6月の3ヶ月分、授業が遅れてる中で受験をするとなると、圧倒的に履修範囲を理解できないまま進む。受験が心配でしょうがない。」と投稿。埼玉県の県立高校生は「一部の学校でオンライン授業が導入されている一方で、登校日に配られた課題や教科書のみでしか勉強できない人が大勢いることも事実。ネットで動画を視聴しても質問することはできないし、学習していく中でわからないところを聞ける先生もいない。(中略)夏休みや土日を利用というが詰め込めるものではない。」と学習格差の問題を指摘している。

反対の学生「誕生日次第で学年が変わる。そんな大事なことを急に決めないで。」
 一方で9月入学に反対の子どもたちもいる。石川県の公立小学生は「今の友達と誕生日次第で急に学年が変わる。そんな大事な事をこんな急に決めないで。」と投稿。

 また、昨年「英語民間試験」や「記述式問題」などの目玉政策が頓挫した大学入試改革の例を出し、9月入学制の実現を疑問視する声も上がっている。埼玉県と東京都の公立高校生は「共通テストの件で巻き込まれたので、残りの期間で準備が整うとは思えない。」「入試改革の流れを見る限り今の文部科学省に大改革を任せたいとは思えない。」と政府への不信感をあらわにしている。

 このほか「9月入学・新学期」制導入で入試日程が延びることで、金銭的な心配をしている学生もいる。愛知県の国立大生は「もし9月入学になったとしても予備校、大学の徴収済みの今期の学費は返ってこない。国立私立大学問わず半期分の学費は少なくとも40万円には及ぶ。これだけの大きな予定外の出費を予備校、大学、私立学校に通う子を持つ全ての家庭に強いるのはあまりにも暴論」と指摘。「当事者達に降りかかる様々な負担を考えていない知事達の成果作りに学生を巻き込まないでほしい。」と導入推進の意見を述べる知事らを厳しく批判している。

保護者は反対56.5% 学年区切りに強い不安感
9月入学アンケート(保護者)
 保護者のほうは「9月入学・新学期制」への反対論が根強いようだ。「9月入学・新学期制」導入に「賛成」と答えた保護者は40.3%(62件)、「反対」と答えた保護者は56.5%(87件)となった。

賛成の保護者「夏休み・冬休みを無くして勉強を詰め込むのは無理」
 「賛成」理由としては、学校行事など子どもたちの学校生活の楽しみを追求させてあげたいという理由や、3月以降の休校で学べなかった分を3月までに子どもたちに詰め込むことは困難という理由が多く挙がった。

 大阪府立高校の生徒の保護者は「オンラインで勉強ができるなら学校はいらない。オンラインだけで学力だけついたとしても人間として大切な事が本当に身につくのか?友達関係、部活での上下関係を色んな思いで過ごすのは大切。自宅での自習には限界がある。」と投稿。北海道の中学生と高校生の保護者は「休校で3月も全然学校に行っていないため、中2の息子は前の学年の勉強も終わってない。夏・冬休みを無くして3ヶ月の勉強を詰め込むのは無理。」と指摘している。

 また、オンライン授業での学習格差の問題を踏まえ、9月入学への移行に賛成している保護者も複数いた。「同級生がどの程度勉強しているか不安、オンライン授業もなく、くだらない多量の紙切れ課題のみで、授業とみなされては受験に対応不可能」(中学校/愛知県/市区町村立)、「オンライン授業では教育を受ける権利の不平等になる」(中学校/大阪府/市区町村立)などの意見が寄せられている。

 このほか、「まだまだ危険な時期に学校を再開してほしくない。」(中学校/兵庫県/市区町村立)と早期の学校再開による感染リスクへの懸念から9月入学を求める声もあった。

反対の保護者「人数が多くなる学年は受験・就職で不利」
 一方で北海道の小学生の保護者は「学年を決める際の誕生日分けに懸念。1.5倍の学年が小学校1年生で発生してしまう可能性があり、将来的に就職受験等、不利な年代が出来てしまう。」と投稿。また、茨城県の小学生の保護者は「生まれ月の調整でどこかの世代だけマンモス学年になり負担が増えるのは良くないと思う。また、保活や家族計画、お受験などにも影響は大きい。」と投稿している。未就学児の保護者からも「学年編成が変わってしまうのは小さな子にとって大きなストレス」(東京都)、「幼稚園児・保育園児だから学習面で影響が少ないからとこの年代で帳尻を合わせようとするならば、政治による子どもへの暴力。有名知事達のパフォーマンスとして、幼い子どもまたその親達が犠牲になってまでやらなければならない意味がわからない。」(岐阜県)など厳しい声が上がっている。このように学年の区切り方次第で自分の子どもが将来的に不利益を被るのではないかと強い不安を感じている保護者が多い。

 また、「私立中学なので、9月入学になった際の4~8月分の学費は国で出すのか。とても半年分の学費を家庭で出す余裕はありません。国で出したとしても、それは私達の税金ですよね。結局は国民に負担がきます。」(中学校/宮城県/私立)、「大学生はオンラインで授業が始まってます。県外下宿なので家賃、生活費が半年余計にかかります。奨学金も延長すると借金がさらに増えます。」(大学・大学院/広島県/国立)など学費など経済面での不安から反対している保護者もいる。

教員53%が反対・心配・懸念 1年留年の提言も
 教員からは校種別に小学校教員が19件、中学校教員が8件、高校教員が16件、大学教員と専門学校教員が各1件、合計45件の回答があった。そのうち反対・心配・懸念が53.3%(24件)となり、賛成の18件を上回った。

 賛成意見としては、「一番は今年度の学校生活を詰め込みや行事の大幅な削減で終えるのではなく、きちんと1年かけてすることができること。それ以外では、夏休みが年度の間になることにより、教員が研修や休暇、新年度の準備などに時間を使いやすくなること。子ども達も長い休暇を自由に有意義に使うことができる。入試時期が春から夏に行える点も良いと思う。」(小学校・義務教育学校/教諭/愛知県/市区町村立)、「生徒が教育課程を履修できてない今の現状で、塾に通う子と学習に遅れが出ている子との間でも差が生じていっている。自分自身の時間が削られるのも重々承知の上で、すべての生徒児童に今まで通りの教育過程を用意するためには、開始時期の変更も仕方ない。」(中学校・中等教育学校前期/教諭/長野県/市区町村立)などが寄せられている。

 一方、反対意見としては、「1学年を何月生まれから何月生まれまでにするのか、子どもたちの進学、就職はどうするのか、行事も組みにくい(運動会、球技大会、記録会、校外学習等)、真夏の卒業式・入学式、教員の採用時期・異動時期はどうするのかなど考えなければならないことがたくさんあるので、急にできることでは無い。」(小学校・義務教育学校/教諭/神奈川県/市区町村立)、「新入生の人数が1.4倍になるのは、ただでさえ日頃人材不足が叫ばれている学校で教育現場の崩壊につながる。(中略)単純に教室の問題、教員の数の問題、そして他学年と平等な質の教育を子どもたちが受けられないという懸念がついてまわる。新入生自身が他学年と比較して不平等を感じる人生を歩むのがとても辛い。」(小学校・義務教育学校/教諭/愛知県/市区町村立)などが寄せられている。

 このほか反対意見として「半年の猶予では不十分。変更に伴う莫大なコストに見合わない。2020 年度はなかったことにして(原則高校生全員留年、その上で飛び級等活用)、みんなで1年長生きしよう。」(大学・大学院/その他教員/京都府/私立)という1年留年プランの提言もあった。

相互対立・分断を招く政策の進め方は禍根を残す
 学生・保護者・教員いずれの層でも賛否両論の状態で、国民の間の合意形成を軽視して強引に「9月入学・新学期」導入を進めれば、賛成派・反対派の学生・保護者・教員同士で対立や分断が起き、禍根を残してしまうのではないか。また、利害調整に敗れた層が大きな痛手を負ってしまうのではないか。

 一方でコロナ禍で臨時休校が長期化し、オンライン授業を受けられる子どもと受けられない子どもが出たり、既存の教育課程を強引に年度内に終わらせようとするのは非常に問題だ。自治体や家庭環境、学校設備などを理由に子どもたちに理不尽な学習格差が生じることは許されない。全員が満足する答えを出すのが困難な中、非常に難しい調整が必要になってくると思う。だからこそ、政府内で水面下の検討をするのではなく、広くオープンな形で国民的議論を喚起し、何が子どもたちにとって一番なのかを子どもたちの目線・立場で考えていく必要があるのではないだろうか。

*14日、39県で緊急事態宣言が解除

データの公表・利用に関して
(2020年5月17日12時更新)
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<データ閲覧ご希望の方> 2020年5月17日12時改定
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<データ利用に関しての条件> 2020年5月17日12時改定
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 ・表記例1:出典:「緊急アンケート 9月入学・新学期について」(The Interschool Journal調査)
 ・表記例2:出典:インタースクールジャーナル「緊急アンケート 9月入学・新学期について」
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