Reported by 平松けんじ
自民党WT②自民党本部
自民党本部(東京・永田町 平松けんじ撮影)
 自民党の「秋季入学制度検討ワーキングチーム」(座長・柴山昌彦前文科相)は、9月入学の導入に関して「今年度・来年度など直近の導入は困難」という提言をとりまとめ、2日、安倍晋三首相に手渡した。柴山座長は3日付の自身のブログで、安倍首相が「確かに法律改正を伴う制度変更をこのタイミングで行うのは困難だ」と話していたことを明らかにしており、政府側も9月入学の導入が困難であるという認識になっているようだ。


9月入学は意味があることだけど、今年度・来年度の導入は無理!
 提言では、9月入学制(秋季入学制度)について、「教育改革や社会変革の重要な契機」「国際化への寄与などの意義がある」としたものの、課題として次のような点を指摘している。
①今の教育制度だけではなく会計年度や企業の採用慣行など、多くの制度や慣行が変わることで社会全体に心理的・経済的な負担が出てしまうこと
②学年を半年後ろ倒しにすることで、在校生や浪人生が就職する時期が遅れ、経費が増えてしまうこと
③今の4月入学から9月入学に移行するときに、特定の学年の人数が増えてしまうことで待機児童が発生したり、幼稚園児・保育園児の学年が分断されてしまうこと
④教員・保育士・教室などの不足や、自治体の負担が増えること
 そのうえでワーキングチームは「今年度・来年度のような直近の導入は困難」と結論づけた。提言の中で9月入学制などの秋季入学制度について政府や党で議論を続けていくべきとし、9月入学を求めていた推進派の議員に一定の配慮を示した。

学びの保障「今年度延長の特例検討を」
 また、提言では、新型コロナウイルス感染症の影響で臨時休校が長期化し、学習が遅れている子どもたちの学びの回復が地域によっては今年度中にはできない可能性を指摘し、検討すべきこととして、自治体など学校の設置者の判断で今年度を2週間から1か月くらい一定期間延長する特例措置や、大学などの1年生(高校と接続する学年)のみ年度を遅らせることを挙げた。

 しかし今年度の延長をした場合、来年度の開始時期が遅れてしまう。提言は来年度(2021年度)は夏休みの活用等で3月までに終わる学校年度に戻していくことを提案している。しかし生徒たちからは「夏休みに学校に出席させられることで熱中症になるのではないか」との懸念の声や、文化祭や体育祭などの行事が中止になることへの不満の声も上がっている。

 こういった生徒たちからの声に対し、ワーキングチームの柴山昌彦座長は、夏休みや土曜日を授業で全部潰してしまうことや小学校低学年の児童が7時間授業を受けることについて「いくらなんでもキツイだろう。学生に対しての配慮がないだろう。」と話した上で「これはあくまでも例示なのでこういう風にしろと断言しているわけではない。ですので当然それ以上に特例措置が長引くということも文部科学省で検討したらあるかもしれない。そうなったら令和3年(2021年)度までに元に戻ることがないということもあり得る。」と説明。また、松本剛明座長代理は「『夏季休業の活用』と書いてあるので、夏季休業を必ず使えという意味ではない」と話し、「夏休みを全部潰すといったことのないようにするためにも少なくとも2年がかりでやったほうが良いんじゃないかとご提案している」と説明した。

 また、提言では今年度を延長する際に小学校1年生が一定期間入学が遅れることや、最終学年の生徒が就職や国家試験受験を控えている場合などの問題への対応を迅速に進めることを求めている。

入試後ろ倒し検討すべき
 このほか提言では、児童生徒から受験への不安の声が上がっていることから、政府に早急に方針の決定・公表を求めている。

 ワーキングチームは提言の中で、▽大学入学共通テストを含めた大学入試の日程について、2週間から1か月程度後ろ倒すことを検討すべき、▽大学・高校・中学校の入試では出題範囲の限定や問題を選んで解答する方式の導入、入試実施時期の繰り下げなど最終学年の学習状況の影響等への対応が行われるよう要請すべきとした。

 また、AO入試や推薦入試については、インターハイなど多くのイベントが中止となっていることから、「成果獲得に向けた努力のプロセス」を評価するなどの丁寧な選抜の必要性を指摘した。

9月入学のメリットをトーンダウン
 今回、1日の会合で柴山座長への一任を取り付け、無事議論を終了した「秋季入学制度検討ワーキングチーム」。先月29日の会合で提示した案からどのような点を修正したのか。1日の会合後、柴山氏は大きな修正点をいくつか紹介した。

 1つ目は「9月入学制度のメリットについて決め打ちをしてしまっているような表現があったため、(9月入学の)メリットの可能性という形で若干トーンを弱めた」こと。

 2つ目は党における今後の9月入学制度の検討について「速やかに」という文言を削ったこと。「速やかに」という文言を削った理由について、柴山氏は「今新型コロナウイルス感染症への対応で教育関係者や自治体が大変な中にあり、まずそちらの対応や、学校再開が遅れた子どもたちの学びの保障、入学試験への対応等、とにかく目先の対応をしっかりしていただくということ」と述べ、長期的に議論していくべきとされた9月入学制度に関する議論はそのあとになるとの見解を示した。

 3つ目は「総理直轄の会議体で」という部分を「総理の下で」という文言に変更したこと。あんまり変わらない気がするが、「直轄の会議体」という記述は「総理が差配できるというような誤解を招きかねない」(柴山氏)ということで「総理の下で」という記述に差し替えたのだという。

議員からはさまざまな声
 1日の会合の中では「コロナに乗じて総理や自民党が秋入学をやろうとしてるんではないかというイメージを払しょくするためにも9月入学を一切やらないというメッセージを打ち出したほうが良いのではないか」という意見があったという。

 一方で9月入学推進派のある女性議員は、会合の中で「私はやっぱり社会変革が必要だという思い。(略)選択肢を狭めることなく、また(コロナの)2波、3波もやってくる状況の中ですので(略)私は社会に影響があるからやるべきではないということではなくて、社会全体の変革につなげていただきたい」と述べ、9月入学が社会変革として必要だと強調した。この女性議員は「私のところにもいろんな方々からお話がある」と述べ、自身に国民から意見が届いていることを明かした。女性議員の発言によると、意見を送ってくる国民は来年9月入学になったときに小学校受験ができなくなるという4月から8月末生まれの未就学児の保護者が多いのだという。だがこの女性議員は「地元からは賛成意見もある。いろんな意見がある中でこの問題をしっかり社会変革につなげるように議論をしていただきたいと思う。」と述べ、9月入学という社会変革を強く求める姿勢を繰り返し強調。あくまで「社会変革」の必要性を唱え続けた。

 一連の「9月入学」をめぐる議論は自民党の「今年度・来年度の9月入学導入困難」という結論で一応の決着がついた形となったが、学習機会や文化祭・体育祭などの学校生活を取り戻せることを期待した小中高校生たちと、自分の子どもが学年分断や飛び級させられる可能性に突然直面させられた未就学児の保護者達はそれぞれの利益のために分断・対立状態に陥ってしまった。両者の間で生じた分断・対立は今も禍根を残している。