平松けんじ

画像=小池百合子東京都知事(2020年7月3日、東京・新宿の都庁内=平松けんじ撮影)

 小池百合子東京都知事が昨年12月21日の記者会見で発表した、小中学生による「医療従事者への感謝のお手紙」。ネット上などで反発の声もあがったが、結局公立私立合わせて約32万通集まったという(都教委・太田喜子企画担当課長)。


 この「医療従事者への感謝のお手紙」募集は、小池知事が昨年12月21日の記者会見で「都内の小中学生の皆さんに、看護師さんをはじめとする医療従事者の方々に感謝のお手紙をお送りするよう呼びかけていく」と発言したことから始まった。東京都教育委員会(都教委)は小池氏の会見翌日に区市町村教育委員会に通知を出し、手紙を子どもたちから募集するよう依頼。電光石火の迅速な動きで知事の発案を実現していった。


 都教育庁(教委事務局)総務部の太田喜子企画担当課長は「知事の思い、呼びかけたいというようなところは伺っている」「(知事の思いを)踏まえて都教委としてとても良い取り組みだと判断した」と述べ、小池知事の意向を踏まえて事業を実施したことを認めた。太田氏によると、「手紙」は趣旨に賛同した学校単位で集約し、都教委で取りまとめた上で医療機関に送ったという。


都民の税金 約90万円を支出

 今回の小池知事発案の「お手紙大作戦」だが、都の税金が使われている。各学校が「お手紙」をに着払いで送った際の経費が89万2730円、都教委から医療機関に「お手紙」を郵送した際の経費が19万4568円だった。合計108万7298円である。また、これ以外に「お手紙」の用紙代を各学校の経費から支出しているという。


保護者からは批判の声も

 実際に手紙を書いた子どもたち、そしてその保護者はどう思っているのか。ISJの取材に2人の保護者が回答した。


 新宿区の区立小中学校に子どもを通わせている保護者によると、担任の教員が「東京都からの要望」として総合の時間を使い、「医療従事者への手紙」を書く時間が設けられたという。この保護者は「手紙を書くかどうか児童側に選択肢を示すような発言はなかった」と述べ、事実上総合の授業の一環で「書かされた」ことを明らかにした。


 また杉並区立小学校では「昨日の小池東京都知事の発言にあったように、児童のお手紙募集依頼が都教育委員会からあった」「メッセージを書きたいお子さんがいれば、用紙を副校長まで取りに来させるように」と記されたメールが保護者に送られたという。


 先の新宿区の保護者は「感謝する気持ちは大切だが、手紙を書くことは医療従事者への負担になる。ましてや都からの要請でやらされることではない」と都の姿勢を批判。杉並区の保護者は「学校からたくさんのご協力ありがとうございました、というメールが届き頭痛がした」と批判した。


 新宿区教育委員会教育指導課の坂本指導主事は「特に書かせる書かせないかは学校(校長)の判断。校長が全校に周知して書くか書かないかは子どもたちの自由。」と述べ、強制を否定。また、都教委の太田課長は「医療従事者の方に感謝を持つという今回の取り組み自体はそれは子どもたちに限らず、今の社会にとってはこういった状況なので私たちとしては『良い取り組み』、必要なことなのかなと(思う)。」と述べ、教育活動の一環として担任がクラス全員に書くよう指示を出すことを問題視しない考えを示した。


教委はいつから知事の下僕になったのか

 小池知事は12月21日の会見で「現場の医療提供体制でありますが、医療従事者の皆さんの献身的な頑張りにかかっていると言っても過言ではありません。こうした皆様方に対して、心からの感謝の気持ちを伝えるために、都内の小中学生の皆さんに、看護師さんをはじめとする医療従事者の方々に感謝のお手紙、ちょうどこの時期ですから年賀状をお送りするよう呼びかけてまいります。」と述べているが、医療従事者の献身的な頑張りに賭けるしかないという発言をしてしまうこと自体、都民に対する責任放棄だ。知事としての職権をフルに使って医療提供体制を確保することだってできたはずだ。都民が今求めているのは知事の「パフォーマンス」でも「お気持ち表明」でもなく、都民がこれ以上コロナ禍で苦しまぬよう徹底した感染防止政策である。


 さらいに言うと小池都知事の会見での発言からあまりに迅速な都教委の対応は教育の政治的中立という観点から非常に疑問だ。戦後、我が国では知事や市区町村長の政治的な干渉を受けないよう、教育委員会の独立性というものが重んじられてきた。しかし都教委は今回の小池知事の会見での発言の翌日には区市町村教育委員会に通知を出してしまった。都庁・都教委内部で事前に調整をして、十分に示し合わせた上での発表だと思うが、これではまるで知事の下僕ではないか。知事のパフォーマンスに子どもたちを動員するという手伝いを教育委員会が進んでやって良いのか。子どもは知事の選挙対策の道具なのだろうか。感謝は言われてするものじゃないし、一斉にやるものでもない。


 以前、「子どもの声を聞く」と言っていた小池都知事。「お手紙作戦」なんぞぶち上げている暇があるなら現場の子どもたちの声を聞いてほしい。コロナ禍で子どもの自殺者数が増えている。今、知事がやるべきことは「お手紙」パフォーマンスではなく、現場の子どもたちに寄り添い、コロナ禍でのストレスを軽減できる政策を考えることだ。