昨年11月3日に東京都渋谷区の国立オリンピック記念青少年総合センターで行われた「都立高校生等ボランティア・サミット」に全日制課程の都立高校生が各校から2名ずつ動員されていた疑いがあることがわかった。複数の都立高校生徒が証言した。
都立高生「先生から声をかけられ半ば強引に」
23区の都立高校に通う生徒は「ボランティア・サミットの話は顧問教諭を通じて生徒会に来てまして各校から2名ということでしたので、他にやりたそうな人がいなそうだったので自分と友人で行くことになりました。別にやりたかったわけではないです。顧問教諭もボランティア・サミットにいい印象を抱かなかったようで、『各校から2人出さないといけない。』みたいなことを言ってましたね。顧問は不本意ながら強制という雰囲気でした。」と語った。また、多摩地域の都立高校に通う生徒は「先生から声をかけられ半ば強引に(参加させられた)。参加者の大半が班での自己紹介で皆、教諭から依頼されたという旨を発言していた。」と語った。
これら複数の都立高校生の証言から学校側が組織的にボランティア・サミットに動員を行った疑いが出てくる。
公文書に参加校数・生徒数を明記
開示された公文書は2018(平成30)年9月18日付で東京都教育庁高等学校教育指導課長名で各都立高校・中等教育学校の校長宛てに発出された「都立高校生等ボランティア・サミットの開催について(通知)」と題したもの。
同文書は、ボランティアサミットの参加者として都立高校全日制課程178校の生徒2名及び教員1名が最初から明記されており、都立高校・中等教育学校の校長に対し「貴校の生徒及び教員の参加について、お取り計らいくださるよう」求めている。
しかし一方で、定時制・通信制課程の都立高校については参加校数や参加生徒の人数などの具体的な数値は明記されておらず、「出席を希望する生徒等がいる場合は担当までご連絡ください」と書かれていただけだった。
都教委の見解は? 「強制という文言は入っていない」
私は「都立高校生等ボランティア・サミット」を担当した東京都教育庁指導部高等学校教育指導課の佐竹指導主事に話を伺った。
佐竹氏は先ほどの公文書について「強制という文言は入っていない」としており、ボランティア・サミットへの参加強制を否定した。佐竹氏によると、ボランティア・サミットを欠席した都立高校も存在しており、公文書に記載されている全日制課程178校全てから生徒2名及び教員1名が参加したとは言えないという。
また、公文書中における全日制課程と定時制・通信制課程の差について、佐竹氏は定時制・通信制課程に在学している生徒には祝日にも仕事がある生徒もおり、参加できない事情などがあることから定時制・通信制課程については参加校数や参加生徒数を具体的に明記しない対応をとった旨を述べていた。しかしその一方で「特に差をつけたというわけではない」とも語っており、何故都教委が全日制課程と定時制・通信制課程の間でボランティア・サミットの参加者募集方法に差をつけたのか全く分からなかった。都教委の言うように基本的に参加は自由ということであれば、出席を希望する生徒がいたら都教委に申し出る定時制・通信制課程のような募集方法に統一しても支障はないはずだが、何故か都教委の公文書では記述に差が出ている。
都教委、不参加校に理由の報告を求めていた
そして佐竹氏の発言より新事実が明らかになった。都教委がボランティア・サミットを欠席した都立高校に対して参加できない理由を出席者確認票に記載するよう求めていたことがわかったのだ。佐竹氏は具体的な欠席理由として、模試や学校説明会等の学校行事を例示したが、このような都教委の行動は圧力とも捉えられかねない。しかし佐竹氏は都教委の見解として「(都教委として)そういうふうには捉えていない」と否定し、学校側もそう感じて回答はしていないはずだと述べた。
動員された生徒の声に「来年度の運営の参考にする」
今回、都教委が公文書に参加者として全日制課程178校と明記したことが各学校の管理職にノルマとして認識され、結果的に都立高校生徒の動員に繋がったのではないか、という私の質問に対し、佐竹氏は「そういうご感想があったことに関しては今後こういうイベントをする際に学校には伝えておこうと思う。」「貴重なご意見として来年の運営に参考にさせていただきたい」とコメントするにとどめ、明確な回答を避けた。
参加した都立高生の反応は?
「都立高校生等ボランティア・サミット」について、参加した都立高校生は様々な感想を述べていた。
23区の都立高校に在学する生徒は「言ってることが当たり前のことばっかりでつまらなかったですね。『ちょいボラ』というちょっとしたボランティアみたいなのを小池百合子(・東京都知事)は映像で言ってましたが、道のゴミを拾うとかでしたし。高校生が集まっても烏合の衆で現実的で素敵なアイデアなんて出てきません。」とボランティア・サミットを酷評した。一方、多摩地域の都立高校に在学する別の生徒は「なかなか面白かった。」と評価した。
生徒の動員に参加者から厳しい声
また、今回問題となったボランティア・サミットへの都立高校生の動員疑惑について、参加した都立高校生から厳しい声が上がっている。
23区の都立高校で生徒会役員を務めている生徒は「高校生の多くがボランティアなんて興味ないので、生徒会としては非常に面倒なことを押し付けられたな、という感じです。強制ボランティアとなるとヘイトは生徒会に向かうでしょうし。」と、都教委が推進するボランティア教育に懸念を表明した。そして別の都立高校に在学する生徒は「人数集めのプロセスに問題がある」と語っており、双方ともに東京都の「ボランティア教育」政策に厳しい声を投げかけた。
垣間見える「ボランティア教育」の強制性
今回色々取材をしてみて、都教委がボランティア・サミットについて公文書で具体的な対象校数や参加生徒数を明示したことや、ボランティア・サミットを欠席する学校に理由を提出させたことが各校の校長・副校長に圧力を感じさせ、生徒の動員に繋がってしまったのではないだろうかと感じた。都教委の担当者は公文書に基づく生徒の動員や校長への圧力を否定したものの、彼らの説明は動員や圧力が存在した疑いを払拭できるものではなかった。
都教委の担当者はものすごく丁寧に対応してくださったが、私の質問に正面から答えようとしなかったり、明確な答えをいただけない部分があったこと、そして矛盾と疑念を解消できなかった点については非常に残念だ。都民そして都立高校生に対して説明責任を果たさない都教委に政策を実行していく権利はないと思う。
本来、ボランティアというのは個人の自発的な自由意思で行われる社会貢献であり、学校や教育委員会が強制するものではないはずだ。しかし東京都の「ボランティア教育」では動員や強制を生徒に感じさせる事態が続発している。先月も都立高校でボランティア応募を強制していると捉えられるような発言を教員が行っている。これらは「ボランティア」という言葉に対する冒涜だと思う。「ボランティア」という言葉を強制徴用や学徒動員の真似事を指す名詞として使っている東京都の現状。子どもたちに言葉を教える教師が嘘の意味を教えていいのだろうか。
23区の都立高校に通う生徒は「ボランティア・サミットの話は顧問教諭を通じて生徒会に来てまして各校から2名ということでしたので、他にやりたそうな人がいなそうだったので自分と友人で行くことになりました。別にやりたかったわけではないです。顧問教諭もボランティア・サミットにいい印象を抱かなかったようで、『各校から2人出さないといけない。』みたいなことを言ってましたね。顧問は不本意ながら強制という雰囲気でした。」と語った。また、多摩地域の都立高校に通う生徒は「先生から声をかけられ半ば強引に(参加させられた)。参加者の大半が班での自己紹介で皆、教諭から依頼されたという旨を発言していた。」と語った。
これら複数の都立高校生の証言から学校側が組織的にボランティア・サミットに動員を行った疑いが出てくる。
公文書に参加校数・生徒数を明記
そして都立高校生らの証言を裏付けるかのように、東京都教育委員会(都教委)がボランティア・サミットが実施される約2カ月前時点の公文書に、対象として「全日制課程178校の生徒2名及び教員1名」と明記していたことが情報公開によって明らかになった。
開示された公文書は2018(平成30)年9月18日付で東京都教育庁高等学校教育指導課長名で各都立高校・中等教育学校の校長宛てに発出された「都立高校生等ボランティア・サミットの開催について(通知)」と題したもの。
同文書は、ボランティアサミットの参加者として都立高校全日制課程178校の生徒2名及び教員1名が最初から明記されており、都立高校・中等教育学校の校長に対し「貴校の生徒及び教員の参加について、お取り計らいくださるよう」求めている。
しかし一方で、定時制・通信制課程の都立高校については参加校数や参加生徒の人数などの具体的な数値は明記されておらず、「出席を希望する生徒等がいる場合は担当までご連絡ください」と書かれていただけだった。
都教委の見解は? 「強制という文言は入っていない」
私は「都立高校生等ボランティア・サミット」を担当した東京都教育庁指導部高等学校教育指導課の佐竹指導主事に話を伺った。
佐竹氏は先ほどの公文書について「強制という文言は入っていない」としており、ボランティア・サミットへの参加強制を否定した。佐竹氏によると、ボランティア・サミットを欠席した都立高校も存在しており、公文書に記載されている全日制課程178校全てから生徒2名及び教員1名が参加したとは言えないという。
また、公文書中における全日制課程と定時制・通信制課程の差について、佐竹氏は定時制・通信制課程に在学している生徒には祝日にも仕事がある生徒もおり、参加できない事情などがあることから定時制・通信制課程については参加校数や参加生徒数を具体的に明記しない対応をとった旨を述べていた。しかしその一方で「特に差をつけたというわけではない」とも語っており、何故都教委が全日制課程と定時制・通信制課程の間でボランティア・サミットの参加者募集方法に差をつけたのか全く分からなかった。都教委の言うように基本的に参加は自由ということであれば、出席を希望する生徒がいたら都教委に申し出る定時制・通信制課程のような募集方法に統一しても支障はないはずだが、何故か都教委の公文書では記述に差が出ている。
都教委、不参加校に理由の報告を求めていた
そして佐竹氏の発言より新事実が明らかになった。都教委がボランティア・サミットを欠席した都立高校に対して参加できない理由を出席者確認票に記載するよう求めていたことがわかったのだ。佐竹氏は具体的な欠席理由として、模試や学校説明会等の学校行事を例示したが、このような都教委の行動は圧力とも捉えられかねない。しかし佐竹氏は都教委の見解として「(都教委として)そういうふうには捉えていない」と否定し、学校側もそう感じて回答はしていないはずだと述べた。
動員された生徒の声に「来年度の運営の参考にする」
今回、都教委が公文書に参加者として全日制課程178校と明記したことが各学校の管理職にノルマとして認識され、結果的に都立高校生徒の動員に繋がったのではないか、という私の質問に対し、佐竹氏は「そういうご感想があったことに関しては今後こういうイベントをする際に学校には伝えておこうと思う。」「貴重なご意見として来年の運営に参考にさせていただきたい」とコメントするにとどめ、明確な回答を避けた。
参加した都立高生の反応は?
「都立高校生等ボランティア・サミット」について、参加した都立高校生は様々な感想を述べていた。
23区の都立高校に在学する生徒は「言ってることが当たり前のことばっかりでつまらなかったですね。『ちょいボラ』というちょっとしたボランティアみたいなのを小池百合子(・東京都知事)は映像で言ってましたが、道のゴミを拾うとかでしたし。高校生が集まっても烏合の衆で現実的で素敵なアイデアなんて出てきません。」とボランティア・サミットを酷評した。一方、多摩地域の都立高校に在学する別の生徒は「なかなか面白かった。」と評価した。
生徒の動員に参加者から厳しい声
また、今回問題となったボランティア・サミットへの都立高校生の動員疑惑について、参加した都立高校生から厳しい声が上がっている。
23区の都立高校で生徒会役員を務めている生徒は「高校生の多くがボランティアなんて興味ないので、生徒会としては非常に面倒なことを押し付けられたな、という感じです。強制ボランティアとなるとヘイトは生徒会に向かうでしょうし。」と、都教委が推進するボランティア教育に懸念を表明した。そして別の都立高校に在学する生徒は「人数集めのプロセスに問題がある」と語っており、双方ともに東京都の「ボランティア教育」政策に厳しい声を投げかけた。
垣間見える「ボランティア教育」の強制性
今回色々取材をしてみて、都教委がボランティア・サミットについて公文書で具体的な対象校数や参加生徒数を明示したことや、ボランティア・サミットを欠席する学校に理由を提出させたことが各校の校長・副校長に圧力を感じさせ、生徒の動員に繋がってしまったのではないだろうかと感じた。都教委の担当者は公文書に基づく生徒の動員や校長への圧力を否定したものの、彼らの説明は動員や圧力が存在した疑いを払拭できるものではなかった。
都教委の担当者はものすごく丁寧に対応してくださったが、私の質問に正面から答えようとしなかったり、明確な答えをいただけない部分があったこと、そして矛盾と疑念を解消できなかった点については非常に残念だ。都民そして都立高校生に対して説明責任を果たさない都教委に政策を実行していく権利はないと思う。
本来、ボランティアというのは個人の自発的な自由意思で行われる社会貢献であり、学校や教育委員会が強制するものではないはずだ。しかし東京都の「ボランティア教育」では動員や強制を生徒に感じさせる事態が続発している。先月も都立高校でボランティア応募を強制していると捉えられるような発言を教員が行っている。これらは「ボランティア」という言葉に対する冒涜だと思う。「ボランティア」という言葉を強制徴用や学徒動員の真似事を指す名詞として使っている東京都の現状。子どもたちに言葉を教える教師が嘘の意味を教えていいのだろうか。
(取材・文=編集長・平松けんじ)