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資料写真・「生活ルール」の画像(Twitterより)

 新宿区立中学校が、今年4月に同校に入学する予定の新中学1年生の児童・保護者に対して配布した「生活ルール」が波紋を呼んでいる。本紙の取材でこの「生活ルール」が新宿区立落合第二中学校のものである可能性が高いことがわかった。同校の島田一宣校長が「断定はできない」としつつも同校のものである可能性が高いことを認めた。
校内生活から服装・防寒着まで
 
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 「生活ルール」では、8項目にわたり校内生活、持ち物、休み時間の過ごし方、職員室の入退室、制服やその下に着る下着や防寒具、頭髪のことまで事細かに定められている。この「生活ルール」は、一般的なものも含まれているが、非常に事細かく、厳しいのが特徴だ。

  特筆すべき点は服装と頭髪に関する規定だ。服装については「ベルトの色は黒色か茶色」(男子)、「スカート丈はひざ裏のラインに合わせる」(女子)、「ワイシャツ、ブラウスの下に着る下着は白」(男女共通)等の規定のほか、靴下は「白色のソックス、ラインがないものとする」「丈は足首が隠れるものにする」、防寒具は「中学生らしく派手でない色(黒・紺・茶・グレー)のコート(スクールコート、ピーコート、ダッフルコートとする)」「マフラー、手袋、ネックウォーマーを着用してもよい」「教室や職員室では防寒具を必ずとる」というような非常に細かい規定が定められている。

  頭髪についても細かい規定が存在する。男子については「中学生らしい清潔な頭髪にする」として目・耳・肩にかからない髪型にすることを求めているほか、着色や脱色、パーマやツーブロックなどの髪型を禁止している。女子については「前は目にかからないように、後ろは肩に掛かる場合はゴムひも(黒・紺・茶)で束ねる。(女子のハーフアップは禁止)」とした上で、飾りやヘアーバンドの禁止、パーマや編込み、着色・脱色を禁止している。

  その他にも「他学年の廊下に行かない」というものや、「置き勉禁止」、携帯電話の持込禁止などが定められている。

保護者&生徒から様々な声
  この細かすぎる「生活ルール」について、ネット上で話題になったことを契機に入学予定者の保護者や生徒から様々な声があがっている。

  入学予定者の保護者は本紙の取材に対し、「ほんとに『クソだな』という感情だ。ありえない。ほとんどすべて不要。不要どころか害ですらあるというものも多い(たとえば携帯電話の持参禁止)。各ルールの意図や目的も不明。『中学生らしい』などの合理性のない空気感の強要もその1類型。」と「生活ルール」を厳しく批判していた。

 また、この中学校の在校生2名が本紙の取材に応じ、「生活ルール」について語ってくれた。生徒たちはいずれも最低限のマナーや規則は必要だとはしつつも「生活ルール」で服装や頭髪について細かいルールが存在することに不満を感じているようだった。

 生徒たちは次のように不満をあらわにした。

「とても窮屈で過ごしづらくあまり楽しくない。すべてが決められているような制限された学校自体は楽しくない」
「靴下の長さや色を決めるなどの疑問を抱くようなルールは必要ないと思います。髪型も制限されていて意味がわかりません。」
「生徒がのびのびとメリハリをつけて過ごせるようになど教師が言っているにも関わらず、窮屈なまま卒業。縛られてばっかりの学校生活だったの思うのが嫌だ。」


 その上で生徒たちは「中学生らしく」という規定について、「中学生らしくという概念に囚われすぎて私たちには自由がありません」と指摘し、学校側に対して個性の尊重や自由を求めた。

 一方で別の声もある。同校の生徒だと思われる複数のツイッターアカウントが次のような投稿をしていた。

「全然厳しくないし、過ごしやすい」
「Twitterで有名になって初めて校則を読んだが、あまり(教員から)言われない」
「そんなに厳しい校則ではない。普通に過ごしていれば問題ない。」

 必ずしも全生徒がこの「生活ルール」に不満を感じているわけではなく、肯定的に受け止めている生徒もいるようだ。

校長「保護者からの問い合わせは4年間一度もない」
 「生活ルール」を出した可能性が高い新宿区立落合第二中学校の島田一宣校長は、8日夕、本紙の取材に応じ、「生活ルール」を定めているねらいについて「本来であればもう少しアバウトな形で決めても構わない」としつつも、生徒の中で誤解や揉め事が起きてしまう可能性があるので細かすぎるのではなく詳しく示すことで、生徒に安全安心な学校生活を送ってもらうことが目的だと説明した。

 また島田校長は、「基本的には子どもたちだけではなくて保護者の方に向けても新学期が始まってから話す機会もあるし、そういった形で説明はさせていただいている」と話した上で、校長着任してからの4年間「決まりが細かすぎる」等の問い合わせなどを保護者から受けたことは一度もないことから保護者の理解を十分に得ているとの見解を示した。

 その上で島田校長は、生徒に対しても生徒の考えをよく傾聴するよう教員に指示したり、生徒会が設置している目安箱への投書を校長自ら読む等生徒の考えに耳を傾けている姿勢をアピールしていた。

区教委「特にそんなに不自然なものではない」
 新宿区立中学校を設置管理している新宿区教育委員会事務局教育指導課の指導主事は、6日、本紙の取材に応じ、「生活ルール」について「内容については特にそんなに不自然なものでもないし、これまでどこの学校でもやっている内容」と評した。その上で「当然それが基準とはなるんだけども、服装についてはどうしても汚れて白のものが履けない場合には個別に対応するとかそういう柔軟な生活指導で対応する」と付け加えた。

  また指導主事は、この「生活ルール」が中学生の自由を制約するものではないかという記者の指摘を「それはないですね」と完全否定した。一方で生徒たちから納得できる合理的説明がされていないという報告が出ていることについては「当然説明はやっぱり必要」「納得をして取り組むことが重要であると思う」と強調し、全校集会、クラスや道徳の授業などで発信していると説明した。このほか、指導主事は、生徒たちがルールについて生徒総会の議題に上げ、変えていくという取り組みは教育的指導として必要だとも指摘していた。

 最後に記者が校則を全廃した世田谷区立桜丘中学校など生徒の自由や主体性を重んじる学校改革事例を示したところ、指導主事は同校などの事例を「結構先進的」と評した上で、「うち(新宿区)であうところとあわないところは当然あるのでよく見極めながら、地域で子ども育てるということを第一に考えて、良いところは参考にしていくことは必要と考える」と話していた。

(取材・文=本紙編集長・平松けんじ)

論評 「ルールだから守れ」という思考停止

 最近ブラック校則というのが話題になっているが、この区立中学校の「生活ルール」は非常に細かいもので、職員室の入退室の際のやり取りや靴下・下着・防寒具のことまで規定している。その文面からは「生徒をとにかく管理統制する」という学校側の強いメッセージを感じた。

 そもそもルールというものは、共同体の中でひとりひとりの自由と権利が安全に保障されるために定められるべきもので、規制しなければ誰かの自由と人権が侵害される明白な合理的根拠がなければ作るべきではない。

 しかしこの「生活ルール」では具体的にどうしてここまで細かく定めているのか納得行く合理的な根拠を示していない。どうして規制するのか、規制しなければ誰かが傷つくという合理的な理由がないのに決まりを作るという行為は生徒を雁字搦めに縛り付けることを目的とした規制ありきの発想と言われても仕方がない。

 そもそも頭髪や服装を規制しなければならない合理的な理由は何だろうか。校長は「生徒に安全安心な学校生活を送ってもらうこと」とコメントしていたが、頭髪や服装が自由であることで生徒の安全安心な学校生活が妨げられるという発想は非常に不可解なものだし、説明として全く合理性が感じられないものだ。

 私は中学時代、制服以外特に規制がない学校に通っていたが、頭髪やカバンなどを理由に生徒同士がトラブルになった場面を見たことは一度もない。そして高校は私服OKかつ頭髪などの規制がない学校に通ったが、そこでは十分すぎるほど安心安全な学校生活を送ることができた。その高校には髪の毛を金色、緑色や赤色に染めた生徒たちが多数在籍していたが、頭髪や服装を理由に生徒同士がトラブルを起こしたという話を私は一度たりとも聞いたことがない。

 どうして決まりを作らなくてはならないのか、皆が納得できる合理的な理由・根拠を示して初めてルールは妥当なものとして受け入れられるものだろう。「ルールは守らなければならない」という発想は完全な思考停止だ。人間が作るものに完璧などあり得ないのだから、まずは「そのルールは正しいのか?」という観点から検証し、合理的な理由・根拠があることを確認してから、初めて「ルールを守れ」と言うべきだろう。

 改めて述べるが、本当に頭髪や服装を規制する必要性があるのだろうか。「生活ルール」では「中学生らしい」という非常に抽象的で分かりづらい言葉がよく登場するが、これは「中学生とはこうあるべき」という固定観念の押し付けであり、「中学生だから自由を制限されて当然」という年齢を理由にした差別ではないだろうか。「男らしく」「女らしく」という性差別と同様の差別だ。

 最後に、中学生と言えども基本的人権は保障されなければならない。他人の権利や自由を侵害しない限りは最大限自由は保障されなければならない。したがってどんな服・どんな髪型・どんなカバンで登校することも自由であるべきだ。何故ならば服や髪型、カバンを好きなものにしようと、他の生徒の学習の邪魔にはならないからである。他の生徒の権利を侵害していないのに生徒の自由を制約するという行為は明らかに不当なものだと私は思う。

 生徒たちよ、権威主義者に騙されてはいけない。ルールが必ず正しいとは限らない。ルールは一人一人が自由と人権を安全に保障される環境を作るために作られるものだ。「ルールを守れ」の前に、「個人の自由と権利を守れ」なのだ。中学生といえども基本的人権を保障されている人間なのだから、理不尽なルールには物申す権利がある。押し付けられたルールに唯々諾々と従うのではなく、その合理性を自分たちで検証し、生徒自治活動を通じておかしいことは変えていく、生徒自身がそういったマインドを持っていくべきではないだろうか。

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