尼崎市立尼崎高校の男子バレーボール部コーチの臨時講師(地理歴史担当)が部員の生徒に暴力を振るい、怪我をさせた問題で、尼崎市教育委員会は、5月21日、報告書を公表した。
また、報告書では平手打ちの最中、臨時講師が被害生徒に対し、「サイコパス」と発言したとの複数の証言があることが記されていた。
報告書はA4判10ページにわたり、現時点での市教委の調査結果が詳述されている。
報告書によると、臨時講師の暴力行為があったのは2019年4月29日11時頃。同校北館4階の体育館での男子バレーボール部の練習中のことだった。被害を受けたのは同校バレーボール部部員の体育科3年生の生徒。
臨時講師は他の生徒がスパイクしたルーズボールがネット付近にまで転がってくるとして、ボールをきちんと拾うよう被害生徒に指示したが、被害生徒に「後輩の指導に集中していてボールに気づかなかった」と主張され、腹を立て、後ずさりして逃げる被害生徒を追いかけながら10回以上執拗に平手打ちした。その後被害生徒は崩れ落ち、20~30分間意識を失った。
また、報告書では平手打ちの最中、臨時講師が被害生徒に対し、「サイコパス」と発言したとの複数の証言があることが記されていた。
臨時講師による暴行を受けた被害生徒は脳震盪、顔面打撲、左鼓膜裂傷の怪我を負った。
被害生徒意識失うも救急車呼ばず
被害生徒が意識を失っている最中、臨時講師は呼びかけたり、呼吸を確認したりしたが、救急車を呼ぶことはしなかった。臨時講師は調査に対し、「被害生徒が意識を失ったことにパニックになった」と供述している。その後、本館6階体育館にいた男子バレーボール部監督(同校教諭)が北館4階体育館に来たときには、被害生徒が意識を失ってから20~30分経過していた。しかし監督は被害生徒が脳震盪を起こしている可能性を認識しながら、休ませるにとどめ、救急車を呼ばなかった。
これらの臨時講師と監督の対応について、市教委は「安全配慮義務違反」と指摘し、「極めて不適切な行為」としている。
監督ら、事態を把握も報告せず 隠蔽か
また、臨時講師や監督は被害生徒が怪我をしたことを4月29日から5月1日の間に把握していながら、5月7日に発覚し、学校管理職に聴取されるまでの間、学校管理職に報告しなかった。
市教委と学校は5月7日午前、同校に匿名の電話で臨時講師の暴力行為が報告されたことで事態を把握し、調査を始めた。
5月7日に行われた学校管理職の聴き取りに対し、監督は臨時講師の暴力行為があったことのみを報告し、被害生徒が一時意識を失ったことや怪我をしたことを報告しなかった。
体育科担当教頭は、5月7日時点で臨時講師の報告メモや監督と臨時講師への事情聴取を通じて被害生徒が意識を失ったことと怪我をしたことを把握していたが、怪我のことが記載されていない監督の報告メモを元に市教委への報告原案を作成。臨時講師と監督それぞれの報告メモを添付して校長に提出したという。
また、臨時講師や監督は被害生徒が怪我をしたことを4月29日から5月1日の間に把握していながら、5月7日に発覚し、学校管理職に聴取されるまでの間、学校管理職に報告しなかった。
市教委と学校は5月7日午前、同校に匿名の電話で臨時講師の暴力行為が報告されたことで事態を把握し、調査を始めた。
5月7日に行われた学校管理職の聴き取りに対し、監督は臨時講師の暴力行為があったことのみを報告し、被害生徒が一時意識を失ったことや怪我をしたことを報告しなかった。
体育科担当教頭は、5月7日時点で臨時講師の報告メモや監督と臨時講師への事情聴取を通じて被害生徒が意識を失ったことと怪我をしたことを把握していたが、怪我のことが記載されていない監督の報告メモを元に市教委への報告原案を作成。臨時講師と監督それぞれの報告メモを添付して校長に提出したという。
市教委は報告書で監督の行為を「隠蔽」、体育科担当教頭の行為を「限りなく隠蔽に近い」と指摘し、「極めて不適切な対応」としている。
校長「報告メモ見ていなかった」と主張
また、市教委は報告書で、5月7日~8日の市教委の調査に対し、校長は臨時講師の被害生徒への暴力行為について報告したのみで、被害生徒が一時意識を失ったことや怪我をしたことについて報告しなかったとしている。しかし校長は5月7日時点で体育科担当教頭を通じて被害生徒が一時意識を失ったことや怪我をしたことが記された臨時講師の報告メモを受け取っている。市教委は報告書で、5月7日時点で校長も被害生徒が一時意識を失ったことや怪我をしたことを知り得る立場にあったと指摘している。このことについて校長は、5月9日19時過ぎに被害生徒の両親と面会した際に初めて怪我のことを知ったと主張している。
市教委は報告書でこの校長の対応について「当該加害コーチ(臨時講師)のメモを確認していなかったとすれば隠蔽にあたるとは言えないが」と仮定法を用いて記述しており、市教委が校長による隠蔽の可能性も十分に考えられると見ていることがわかる。
市立尼崎高校の桑本廣志校長は、5月22日、本紙の電話インタビューに応じ、5月7日時点で体育科担当教頭から市教委への報告原案と臨時講師の報告メモを受け取ったものの、その内容を確認していなかったと主張した。電話インタビューの中で桑本校長は自らの職務怠慢を認め、不適切な行為だったと自己批判したものの、隠蔽については否定した。(→関連記事:市立尼崎高校:桑本校長を直撃 電話インタビュー)
また、桑本校長は部活動の普段の練習状況についても全く把握していなかったことを認め、「把握してましたら真っ先にそんなのは指導監督してやめさせる」とコメントしている。部活動の運営状況について把握していなかったことについて、本紙記者が追及したところ、「授業は割と管理職も見に行くが、放課後の部活の練習については見に行ってなかった」とした。その上で桑本校長は「クラブ活動だからとすべてクラブ顧問に任せてるというのはちょっと認識を改めないというのは思いました」とコメントした。
市教委、直接事実確認せずに「怪我なし」発表
市教委は9日に、学校からの報告に基づき「被害生徒の怪我はなかった」と発表していたが、後に被害生徒の家族からの指摘や匿名の通報により、実際は被害生徒が怪我をしていることが発覚した。
市教委は学校側の報告を尊重して直接当事者に事実確認せずに報道発表したという。
市教委は9日に、学校からの報告に基づき「被害生徒の怪我はなかった」と発表していたが、後に被害生徒の家族からの指摘や匿名の通報により、実際は被害生徒が怪我をしていることが発覚した。
市教委は学校側の報告を尊重して直接当事者に事実確認せずに報道発表したという。
臨時講師、常習的に暴力行為か
同校男子バレーボール部では、今回暴力行為を行った臨時講師による過去の暴力行為が発覚している。昨年8月に2年生の生徒の顔にボールを押し当てた事例や、今年3月に3年生の生徒の首を掴んで投げた事例が判明している。このほか市教委は報告書で、5月14日に同部部員生徒を対象に行なったアンケート結果によると、臨時講師の常習的な暴力行為を疑わせる記述が多数あったことを示している。
【資料】生徒のアンケートの記載から疑われる臨時講師の暴力行為◯被害生徒への平手打ち◯部員への平手打ち、蹴り◯部員の旨を強く押す◯部員の服を引っ張り、倒そうとする◯今年3月又は4月、練習試合で部員を押し倒してステージ裏で膝を蹴った◯押し倒した◯今年4月頃(?)、2年生の胸をこぶしで殴った◯部員の胸ぐらを掴み放り投げた◯3月頃ビンタされた◯部員を何回か叩いた◯試合で撒けた後の集合で部員を1人ずつビンタした◯ボールで顔を叩く、ぶつける◯春休みの練習試合の際、アップ不足の部員を壁に追い詰める。同時期の練習中、別の選手に対しても同じように壁に追い詰めていた。(いずれも監督不在時)◯福岡遠征の際、その場に居たメンバーが全員ビンタを2回ずつされた◯部員にボールを投げつけることはよくあった◯2018年12月の合宿で数回殴られた◯4月の練習試合で部員を投げ飛ばした◯練習でよくボールをせんしゅにぶつけていた※上記の記載は重複するものがある可能性あり
また、監督も生徒の髪を掴み、「わかっているか」と言ったことがあると暴力行為を認めている。
その他、硬式野球部でもコーチを務める別の臨時講師の暴力行為が判明しており、市教委は現在調査を進めている。
市立中学校でも報告書公表2日後に教諭が生徒を平手打ち
また、尼崎市教委が報告書を公表した2日後の5月23日、新たに尼崎市立中学校でも教諭による暴力行為が発生した。市教委の報告書によると、5月23日12時30分頃、尼崎市立中学校の運動場で組体操の練習を見学していた生徒4名に対し、保健体育科の女性教諭が見学態度について指導していた際、このうちの生徒1名を平手打ちした。市教委が被害生徒に確認したところ、被害生徒は頬を叩かれた後、耳に痛みを感じており、当日はしばらく痛みが残ったという。暴力行為を行った女性教諭は5月27日以降生徒に直接係る指導から外れている。
市教委は報告書末尾で「体罰を絶対に認めないという強い姿勢をもって対処する」としている。
市教委に「体罰調査特命担当課長」設置 市が発表
今回の尼崎市立尼崎高等学校男子バレーボール部臨時講師による暴力行為を受け、尼崎市は市教委に「体罰調査特命担当課長」を設置し、市秘書課長を6月1日付で市教委に出向させて就任させることを発表した。市人事課によると、市長部局から市教委に出向した職員は3名だという。市教委職員ではなく市長部局の職員が「体罰調査特命担当課長」の職を担うことについて、人事課の担当者は「やはり市としても今回のことを重く受けておりますし、市内の学校園を調査するにあたり人的支援が必要だろうということ」と説明していた。
(取材・文=本紙編集長・平松けんじ)
コメント