新宿山吹高校 外観
資料画像・東京都立新宿山吹高校(撮影=編集局記者)
 高校紛争が続いている東京都立新宿山吹高校で、紛争の当事者である学校側と同校自治委員会が団体交渉を巡り、決裂していた可能性が高いことがわかった。同校自治委員会自治長(同校定時制課程情報科生徒)が明らかにした。



 新宿山吹高校自治委員会は、先月2日、学校側に対し、40項目にわたる要求書を手渡し、団体交渉に応じるよう求めていた。しかし同校の梶山隆校長は、先月13日、同自治委員会の磯田航太郎自治長に対して団体交渉に応じない旨を通知したという。同自治委員会は「学校当局は自ら和平の道を投げ捨て、紛争継続の意思を示した」と学校側を厳しく非難し、日本自治委員会に紛争介入を要請した。

 日本自治委員会は、先月17日に新宿山吹高校紛争への介入を発表し、東京都教育委員会に対して四者交渉(学校・都教委・新宿山吹高校自治委・日本自治委)を要求した。しかし先月26日、東京都教育庁(東京都教育委員会事務局)高等学校教育指導課・久保田主任指導主事は要求を拒否した。久保田主任指導主事は、「生徒会が機能しないならば生徒会が機能するよう学校を指導する」意向を示し、あくまで学校内の組織である生徒会を活用する考えを示した。

  これに対し、日本自治委員会のスポークスパーソンである上原瑞貴情報局長は、先月28日、本紙のインタビューに答え、次のように述べた。
「都教委や学校側の自治委員会を認めない頑なな姿勢は高校紛争を悪化・泥沼化させるもので在学生の利益を全く考慮していない不毛な態度だ。日本自治委員会は、東京都教育委員会に紛争を解決する気がないことをよく理解した。我々は生徒の権利と自治を守るため、どんなことがあっても自治委員会活動を推進する。都教委は貴重な妥協の場を失った。」
 また、4日夜、日本自治委員会は、平松けんじ議長の談話を発表した。平松議長は談話の中で、都教委が四者交渉を拒否したことに関し、「(都教委は)紛争を解決する気がない」「私たちの平和を願う心とそのための努力を三たび踏みにじる東京都教育委員会の対応」と都教委を厳しく批判。平松議長は、今後の活動について「生徒の権利と自治を守るため、今後も自治委員会活動を強力に推進する」としており、「これにより現場の自治委員会と学校側の対立は激化するでしょうが、やむを得ない」との認識を示した。また、平松議長は、都教委・久保田主任指導主事の発言について、「生徒会がいかに欠陥制度かを自ら暴露している発言」と指摘。平松議長は生徒会とは「生徒の権利を守り、生徒がより良く学校生活を過ごせるように学校に生徒の要望を伝え、実現する」組織であると定義づけた上で、生徒会に機能しろと命令できる時点で生徒自治機関としては死んでいる」と述べた。

新宿山吹高校自治委員会の要求の内容は…
 学校側と激しく対立している新宿山吹高校自治委員会。同自治委員会が学校側に提出した要求書は延べ40項目にわたる。自治委員会は、要求書の第1項目で「自治委員会と学校当局の間で和平に向け建設的な解決策を話し合い,和平協定を締結し,一連の高校紛争を解決」することを求め、団体交渉に応じるよう求めている。その上で過去に学校側が行ったとされる行為(=以下=)について、謝罪や撤回を求めている。
  • ①全校生徒に対しての「新宿山吹高校自治委員会は本校とは無関係です。関わらないでください。」という周知
  • ②相談室担当教諭が行ったとされる磯田自治長の友人に対する引き剥がし工作
  • ③校内新聞「YAMABUKI JOURNAL」に対する検閲や弾圧
  • ④磯田自治長に対しての「暴力的弾圧」,「暴力的」生活指導,恫喝,威圧,軟禁,「身体拘束行為」などの指導
 その後、第4項目では学校内外での生徒の言論・表現・出版・集会・結社の自由を認め、生徒の表現活動に対する検閲をしないよう求めているほか、第5項目では空き教室の自由利用の保障を要求。第6項目では生徒の自由な活動について学校側が不利益処分を行わないよう求めている。第7項目以降では、生徒会やクラブ活動、文化祭実行委員会の顧問制の廃止と、生徒による自治を求めているほか、生徒会費の強制徴収をやめるよう求めている。

 また、第11項目から第17項目では学校運営に関して言及。第11項目では学校長・教職員代表・生徒代表・保護者代表の4者で構成される「全校運営委員会」が民主的合議制の下で学校運営を担うこと、第12項目では職員会議での教職員の自由な発言・意見提起・採決を認めるよう求めている。第19項目では生活指導部の廃止を求めている。

 その後、要求書は第20項目から学校経営について言及。第20・21項目では不登校や高校中退の生徒を受け入れてきた新宿山吹高校の校風に合わせ、入試の当日試験点と内申点の比率を不登校生に不利益が生じない比率に戻すよう求めている。また、新入生への学力テスト強要禁止(23)、「人間と社会」廃止による現代版学徒動員・強制徴用にあたるボランティア活動を中止(24)なども合わせて求めている。

 要求は止まらない。第25項目からは教職員の人事について言及。同校の校風に合わない指導の中止(26)、相談室教員のモラハラ疑惑の調査(第27項目)、授業の質が悪い教員の追放(28~29)と続く。その後第33項目から学校施設に関しての要求に移る。カードリーダーによる出欠管理の復活(33)、トイレの美化や施設改修(34)、自習室の机についての要望(35)、自習室の温度管理(36)、部活動の予算配分の見直し(37)、ロッカーの設置(38)など、生徒からの要望を次々と要求書に盛り込んでいる。

 このほか、自治委員会は、先日の台風15号の関東通過に伴う、一連の混乱について、マニュアル整備や早期の休校判断などを求める生徒の声を受け、追加要求を行う予定だったという。

新宿山吹高校紛争とは…
 新宿山吹高校をめぐる高校紛争は2017年10月頃から延べ2年にわたり繰り広げられている。現在も学校側と自治委員会が激しく対立しており、紛争は泥沼化している。これまでも「日刊ゲンダイ」「週刊金曜日」などのメディアで取り上げられているが、今回、改めて本紙でも紹介する。

 そもそもこの紛争は、2017年6月に同校の校内新聞「YAMABUKI JOURNAL」の編集長を務めていた生徒に対し、学校側が生活指導や特別指導を繰り返し行い、記事を強制削除させたことから始まった。

 生徒は、編集長就任後、校内で起きた出来事を報じたところ、学校側はこれらの記事を「学校の評判をおとしめる」として削除するよう生徒に繰り返し迫ったという。生徒は憲法21条の検閲の禁止規定を盾に抗弁し続けるも、同校生活指導担当教諭が連日「覚悟は出来てるんだろうな」「法律なんかどうでもいい」などの発言を行ったという。(この様子は生徒のTwitterで公開されている)

 最終的に同年6月15日から16日にかけて、生徒は、校長室で誰も弁護する者がいない中、副校長以下生活指導担当教員らから繰り返し記事の削除を迫られ、精神的に消耗した状態で誓約書に署名をさせられたという。その後、同年10月になって内容を十分把握していないまま誓約書に署名させられたことに気づいた生徒は、梶山校長に対し、誓約書の内容を開示するよう求めたが、梶山校長はこれを拒否したという。最終的に生徒が同年12月に誓約書への署名を撤回することを内容証明で宣言。「YAMABUKI JOURNAL」を再復刊させた。またこの際、生徒は校内での言論・出版・表現の自由が生徒から奪われていることに危機感を感じ、生徒会に代わる生徒自治機関「自治委員会」を結成した。

 学校側は、自治委員会を激しく敵視。2018年4月には、自治委員会議長を務める生徒に対し、指導に従わないことを理由に授業に参加させないという教育を受ける権利を侵害する行為など人権侵害行為を繰り返し行ったという。

 しかし新宿山吹高校自治委員会は、学校側との闘いを続け、現在では校内で事実上支障なく活動ができているという。現在、同校自治委員会は、生徒会に代わる生徒自治機関として、実際に学校側に要求書を提出したり、生徒の相談に乗って問題解決に動くなどの活動を展開している。また、新宿山吹高校自治委員会の活動に触発された他校の生徒たちが自治委員会を続々と結成し、今では3校で自治委員会が活動している。

 同校自治委員会のトップを務める生徒は、2018年1月のビデオ演説で自由は闘ってこそ得られるのです。同調圧力に負け、黙っていては搾取され続けるのです。」「小さなところで物を言えなければ社会は変わりません。」と発言している。まさにおっしゃる通りだと思う。学校という小さな共同体の中で、自分たちの学校生活について他人事のような態度を取るのではなく、自分のこととして考え、物申していくこと―これは本当に大事なことだ。

(編集局記者)

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