国会は、7日に児童福祉法の一部を改正する法案を可決し、14日には、子どもの権利保障と意見の尊重を規定した「こども基本法案」と、子どもに関する行政と政策立案を一元的に行うための新省庁「こども家庭庁」の設置を可決した。
児童福祉法改定 多岐に渡る法整備
今回改正された児童福祉法は、2024年4月から施行する予定。この法改正で、子育て支援、児童虐待防止、性犯罪保育士対策等の法整備が大幅に進められることとなる。
子どもと家庭に関する新たな専門の支援事業が多く成立した。家事や育児に不安を抱えた家庭への訪問支援、親子間の適切な関係性の構築の支援、学校と家以外で子どもの居場所となる拠点の開設支援等の事業を設けることとしている。
児童相談所のあり方は大きく改められた。児相が在宅指導、里親委託、施設入所、一時保護・解除等の措置を決定する際は、児童の「最善の利益を考慮」したうえで、子ども福祉の知識・経験のある支援事業員が児童本人に意見聴取することが義務付けられた。
児相による一時保護については、保護者の同意が得られなかった場合、これまでは児相所長の職権で強制執行できることとなっていたが、改正後は保護から7日間以内に裁判所の審査を受けなければならないこととなった。一時保護施設については、これまで劣悪な環境が指摘されてきたが、都道府県が設備・運営について、児童の発達に必要な生活水準を確保できるような基準を定めることが義務付けられた。保護解除後についても、児童が家庭に戻れるために、虐待再発を防ぐための情報提供、相談、助言を親子に行う支援事業が設けられた。
その他、児童への性的暴行を理由に登録取消や免許剥奪の処分を受けた保育士やベビーシッターについて、免許を再授与する基準を厳格化した上で、専用のデータベースに保育士の氏名や性暴力に関する情報を記録した。
「こども基本法」成立 子どもの権利守る基本法
こども基本法は、子どもの権利と子育ての理念について明記した基本法だ。我が国は1994年に「子どもの権利条約」を批准しているが、子どもの権利に関する基本法は28年間にわたり整備されなかった。
基本理念では、全ての子どもについてあらゆる権利を保証しており、「個人として尊重」「基本的人権の保障」「差別的取り扱いを受けない」「適切な養育」「生活の保障」「愛され保護される」「福祉の権利と教育を受ける機会を等しく保障」「多様な社会的活動に参画する機会の確保」「意見の尊重」「最善の利益を優先して考慮」ということが明記されている。また、子どもの養育に関し、「家庭を基本」「父母その他保護者が第一義責任を有する」とし、「家庭での子ども養育支援」と「家庭養育が困難な子どもへの家庭同様の養育環境の確保」を掲げている。
また、基本理念の実現のため、「こども施策」として「成長段階ごとに切れ目のない健やかな成長への支援」「子育てに伴う喜びを実感できる社会の実現に資するための支援」「家庭その他子どもの養育環境の整備」を講ずべきものとし、国と自治体はその策定・実施の責務を負うとしている。
その一方で、立憲民主党と日本共産党が主張し、日本財団も訴えていた、子どもの権利を擁護するための独立機関「子どもコミッショナー」の設置は見送られた。また、立憲民主党は、子どもの権利擁護や子育て支援にかかる財源を確保する対案を国会に提出していたが、これは成立しなかった。
また、日本共産党は、今回可決されたこども基本法案に反対の姿勢を取っており、その理由に「10代前半での自殺の増加、いじめ、不登校など子どもの深刻な現状への分析的な認識や、これまでの施策の検証、反省が示されなかった」「プライバシー権を脇に置いて子どもの情報の利活用を掲げている」「子どもの養育責任を社会とせず、家庭としている」ことを挙げている。
「こども家庭庁」新設 子ども行政を一元化
新たに設置されることとなった「こども家庭庁」は、翌年4月に発足を予定している。
こども家庭庁設置の背景には、これまで子どもに関する政策立案と執行が縦割りで行われてきたという経緯がある。子どもの健全な育成と貧困対策は内閣府政策統括官が、子育て支援と認定こども園の運営は子ども・子育て本部が、児童性的搾取防止は警察庁が、児童虐待対策と保育園の運営は厚生労働省が、幼稚園と学校の運営は文部科学省が、それぞれ縦割りで行ってきたのだ。こども政策に関連する大綱作成や閣僚会議も別々に行われてきた。
こども家庭庁は、これらのうち文部科学省所管の分野を除く全ての権限が移管され、「こども政策の司令塔」として一元的に政策立案・執行を行うこととなる。
「こども家庭庁」という名称をめぐっては、大いに議論の対象となった。立憲民主党や日本共産党は「家庭で親による虐待を受けて苦しめられる子どもがいることを考えてほしい」といった主張を行い反対している一方、自民党内の部会で座長を務めた加藤勝信衆議院議員は記者クラブで「子どもは家庭を基盤に成長する。家庭の子育てを支えることは子どもの健やかな成長を保障するのに不可欠」と現行の名称を擁護する主張を唱えている。
また、立憲民主党は「子ども省」を新設して「子どもコミッショナー」設置や子ども政策の予算倍増を行う法案を、日本維新の会は「教育子ども福祉省」を新設して文科省が所管する幼稚園分野をさらに移管する法案を、それぞれ国会に提出したが、いずれも可決されなかった。
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