岩手県教育委員会は、6月24日、2018年7月に県立不来方高校で3年生の男子バレーボール部員の生徒が自殺した問題をめぐって、当時同部顧問教諭だった佐々木幸浩・総合教育センター研修指導主事を懲戒免職処分にした。

 佐々木氏は、自殺した男子生徒に対し、2年生の6月頃から1年間以上にわたり「お前はバカか」「アホか」「脳みそに入ってんのか」「それでもJOCか」「背は一番でかいのにプレーは一番下手だな」「部活やめろって言ってるんだ」といった暴言を繰り返し行ったほか、亡くなった生徒以外に対しても、「使えない」「バカ」「アホ」のような人格を否定する発言を繰り返していた。佐々木氏は、2018年4月以降、男子生徒への「叱責」を激しく行い、高校総体後の6月以降には一層ひどく行った。男子生徒は、自傷行為を繰り返したり、希死念慮を抱くようになった末、2018年7月3日、自殺した。

 県教育委員会の高橋嘉行教育長(当時)は、同年9月19日の会見で「指導と生徒の自死を結びつけるという判断は難しかった」と述べ、佐々木氏の言動と生徒の自殺の因果関係を認めなかった。

 第三者委員会は、佐々木氏の言動が男子生徒に絶望感、劣等感、拒絶感を増大させ、多大な精神的ダメージを与えたと指摘。さらに佐々木氏の言動を「いたずらに威圧、威嚇する発言、人格を否定し、意欲や自信、自尊感情を奪う発言」「独善的かつ過度に精神的負荷を与える発言」と指摘し、「指導の手段として社会的相当性を欠き、または指導としての域を超えるものであり、教員としての裁量を逸脱したものであった」と厳しく批判している。

懲戒免職の顧問は生徒への暴力・暴言常習化

 佐々木氏は、生徒や同僚からの評判は「偉そうにしない」「勤勉で真面目」「社交的」などと軒並み高かったとされる一方、部員への指導に際して怒鳴りつけることがあったとほとんどの部員が認めている。また、佐々木氏は、前任校で、生徒を平手打ちにしたり、「お前は駄馬だ」と発言したとして提訴されている(県が敗訴)。判決を受けて、県教委は佐々木氏を減給1カ月の処分としたが、既に男子生徒が自殺した後だった。

 男子生徒は自殺する1か月前、学校のアンケートに対して「安全でない場所がある」と回答していたが、学校は何一つ対応しなかった。第三者委員会はこうした学校の姿勢について「何の支援も受けることができなかったことが、男子生徒の孤立感や絶望感を一層増大させることになったと考えられる」と指摘している。

 県教育委員会教職員課の木村基県立学校人事課長は、7月7日、ISJの取材に応じ、「県教委としては判断することが困難」としつつも、「(第三者委員会の報告を)県教委として重く受け止めている」と話している。県教委は、再発防止策「岩手モデル」を策定するため、昨年1月から「岩手モデル策定委員会」を設立し、当時の学校や県教委の対応を検証しているが、昨年度中に取りまとめるはずの「岩手モデル」は現在も策定されていない。

 このほか県教委は、2015年から2018年にかけて佐々木氏の上司だった5名の副校長(当時)も戒告処分とした。

前任校事案時点で対応したら悲劇は防げたのでは?

 前任校で暴言・暴力行為を起こし、提訴されていた佐々木元研修指導主事。佐々木氏は、異動先でも同様の行為を繰り返し、被害を受けた生徒が自殺してしまった。佐々木氏は、第三者委員会の聴取に対し、「相手を傷つけようと思って叩くのが暴力であり、相手を傷つけるつもりではなくて叩くのは暴力ではない」と供述している。こうした事実を踏まえると、佐々木氏は、教育者の資質を明らかに欠いた人物であり、本来教員として採用すべきではなかった。そして学校も男子生徒の繰り返しのSOSを見逃し、放置した結果、重大な結果を引き起こした。

 県教委の対応も極めて問題だったのではないか。県教委は、第三者委員会が調査報告書を提出した2020年7月にやっと佐々木氏を生徒との接触のない総合教育センターに異動させた。あまりにも遅きに失した対応だ。こうした人物を教員に採用し、前任校での暴言事案に関して、訴訟が提起されるまで生徒と保護者に寄り添わなかった県教委の姿勢がこの悲劇を生んだと言ってもいいのではないか。

 県教委は今もノロノロと「岩手モデル」なるものを作っている。ふざけるなと言いたい。生徒の心を傷つける教師は教師とは言わない。明らかに不適格な人物は即時免職とする制度運用を行うべきだ。

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